二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2017.02.02
第1回 蹴りが魅力の"足のボクシング"
~東京へと踏み出す新たなチカラ~(1/4)
2020年東京パラリンピックから正式競技に採用されるパラテコンドー。日本代表の伊藤力(ちから)選手は昨年1月に競技を始めたばかりだ。わずか数カ月で国際大会での出場を果たすなど、3年半後の東京パラリンピックで飛躍が期待されている。剣道、テニス、フットサルと異なる競技を経験していたものの、テコンドーとは無縁だった伊藤選手。事故で右腕を失い、未知の世界へと踏み出していったその足跡を辿る――。
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長):今回のゲストはパラテコンドー日本代表の伊藤力選手です。パラテコンドーは2020年東京パラリンピックから正式競技となるので、もしメダルを獲られると、パラリンピックの初代メダリストとして名を連ねますね。それがまた自国開催という意味でも大きな価値がありますね。
伊藤力:そうですね。でも、あまりプレッシャーをかけないでください(笑)。
伊藤数:それは失礼しました(笑)。
二宮清純:まずはルールについてお伺いします。テコンドーはキョルギと呼ばれる組手とプムセと呼ばれる型の2種目があり、さらに組手は体重別、型は年代別に分かれていますが、パラテコンドーは?
伊藤力:パラテコンドーにもキョルギとプムセの2種目があります。国際ルールでキョルギは主に上肢障がいの選手を対象にしていて、障がいの度合いでK41~K44までの4階級に分けられます。僕は障がいが一番軽いK44です。肘より少し上くらいが欠損しているとK44ですが、肘関節の3分の2以上がないと、K42に分けられます。一方のプムセは知的障がいの選手が対象になり、年代別で階級が区分されています。
二宮:なるほど。一般のテコンドーのように体重別では分かれていないのでしょうか?
伊藤力:プムセは体重によるクラス分けがありませんが、キョルギにはあります。男子が61キロ未満、75キロ未満、75キロ以上の3階級、女子が49キロ未満、58キロ未満、58キロ以上の3階級です。僕は男子61キロ未満級に出場しています。
二宮:キョルギは障がいによる区分が4階級、体重が3階級で12階級。男女合わせれば24階級あるということですね。
伊藤力:はい。あとはこれから東京パラリンピックに向けて、どのようにクラス分けのルール改正が行われるかによって変わっていくようです。現時点ではまだはっきりしたことはわからないのですが、おそらく現状よりは、少なくなるのかなと思います。
【頭部への打撃は禁止】
伊藤数:パラテコンドーは一般のテコンドーとどのようなルールの違いがありますか?
伊藤力:大きく違う点は頭部への打撃が禁止されていることです。
伊藤数:それは大きな違いですね。他にルールで異なる点は?
伊藤力:パラテコンドーでは、突き自体は使ってもいいのですが、ポイントにはなりません。
二宮:突きを当ててもポイントにならなければ、どういう意味があるのでしょうか。
伊藤力:足の攻撃に移行するための繋ぎの動きですね。突くことで相手との距離を詰め、間合いをコントロールしながら蹴りを当てます。
二宮:打撃によるポイントはどのように定められているのですか?
伊藤力:こちらも大きく違います。パラテコンドーでは、蹴りが相手の胴に当たると1ポイント、180度以上の回転を加えた蹴りと、相手に背を向けて蹴る「後ろ蹴り」には3ポイントが与えられます。パラテコンドーは、この2種類しかありません。これに対して一般のテコンドーでは胴への突きが1点、かかと落としなど頭部への蹴りは3点、180度回転した後の頭部への蹴りや後ろ回し蹴りで頭部に当てれば4点が加わります。
伊藤数:試合時間に関してはどうでしょう?
伊藤力:こちらは基本的に同じです。2分3ラウンドで行われ、ラウンドごとのインターバルは1分。3ラウンド終了時点でポイントが高い方が勝ちとなります。
二宮:計6分戦うわけですからスタミナもいりますね。KOで決着がつくことも?
伊藤力:あります。うずくまって立てなくなったり、意識を失った場合はKOですね。あとはレフェリーの判断次第です。セコンドがタオルを投げることもありますし、レフェリーが10カウント数えるまでに戦意がなければKOになります。
二宮:その点はボクシングに近いですね。一般のテコンドーは韓国の国技ですが、パラテコンドーでも韓国が強豪なのでしょうか?
伊藤力:パラテコンドーに関してはヨーロッパ勢が強いです。主にロシア、アゼルバイジャン、トルコの東欧勢。体格的には細くて、足が長い人が向いているのかもしれませんね。あとは足の可動域がカギを握るので、柔軟性も必要になります。ただ僕はまだまだ硬いのが課題です......(笑)。
(第2回につづく)
<伊藤力(いとう・ちから)>
1985年10月21日、宮城県生まれ。中学は剣道、高校ではテニス部に所属した。2015年4月に就業中の事故で右腕を切断した。退院後はアンプティサッカーをプレーしていたが、関係者の紹介で16年1月から本格的にパラテコンドーを始める。4月にはアジア選手権に出場し、国際大会デビューを果たした。身長171センチ。階級は61キロ級。株式会社セールスフォース・ドットコム所属。
(構成・杉浦泰介)