二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2017.02.09
第2回 未知の競技への挑戦
~東京へと踏み出す新たなチカラ~(2/4)
二宮清純:どういったきっかけでパラテコンドーを始められたのでしょう?
伊藤力:昔から体を動かすことは好きで、中学は剣道部、高校ではテニス部、卒業後はずっとフットサルをやっていました。受傷したのは、一昨年の4月です。仕事中の事故で、右腕を切断することになってしまいました。ただ最初に始めたパラスポーツは、アンプティーサッカーでした。そのチームのサポートメンバーの中に、テコンドー道場に知り合いがいる方がいたんです。その方から「パラテコンドーが2020年東京パラリンピックに決まったんだけど、競技する人を募集しているから、やってみない?」と誘われたのがきっかけです。
伊藤数:パラリンピックには興味がおありでしたか?
伊藤力:正直、パラリンピックはほとんど見たことがなかったです。車いすバスケットボールやウィルチェアーラグビーなどのメジャーな競技を知っていた程度で、実際に試合を見たことはありませんでした。
二宮:では事故に遭ってから、パラリンピックが身近なものになったと?
伊藤力:そうですね。僕がアンプティーサッカーを始めた時は、まだパラテコンドーが東京パラリンピックの正式競技に決まる前でした。追加競技の最終候補にアンプティーサッカーも入っていたので、"正式競技に選ばれたら、東京に向けて本気で頑張ってみようかな"と考えていました。でもアンプティーサッカーは選ばれず、パラテコンドーが選ばれた。そんな時に、さきほどの誘いを受けたんです。
【踝と腰の回転で当てる蹴り】
二宮:パラテコンドーは、それまでやっていたフットサルやアンプティーサッカーと足を使うという点では共通しています。ただボールを蹴るのと、人間を蹴るのとでは大きく違う(笑)。
伊藤力:はい(笑)。テコンドーの指導者からも「サッカーの蹴りをするな」と言われます。
二宮:確かにサッカーで、テコンドーのように足を高く上げることはあまりないですね。
伊藤力:ハイキックの反則を取られてしまいますからね。
二宮:具体的にはどのあたりが一番違いますか?
伊藤力:始めたばかりの頃、よく言われたのは「斜めから足を出すな」ですね。サッカーは足元にあるボールを蹴るので、足を外から回すようなかたちで、自然とスイングは斜めに軌道を描きます。一方でテコンドーの蹴りは真っすぐです。踝と腰の回転で当てる感じですね。
伊藤数:確かに実演していただくと、全然違いますね。
二宮:パラテコンドーで有効なのは胴への打撃ですから、下段への蹴りは使う必要がありません。それにサッカーの蹴りだと相手の胴へ届くまでに時間がかかってしまいますね。
伊藤力:そうですね。相手に読まれてしまうことがいけないので、踏み込みもできるだけ小さくしたい。"蹴りにいくぞ"と知らせてしまうようなものですから。
二宮:なるほど。出所を読みにくくするためには、両足が使えないといけませんね。
伊藤力:はい。どちらの足も使えた方がベストです。フットサルやサッカーをやっていたおかげで、「蹴りの強さは十分ある」とコーチからも言われました。あとは当て方やスピードをどれだけうまくコントロールできるかですね。
二宮:剣道の経験はあったとおっしゃっていましたが、テコンドーのような格闘技は未経験ですよね。競技に痛みやけがはつきものだと思いますが、すぐに慣れましたか?
伊藤力:競技を始めて1年が経ちますが、まだ慣れませんね(笑)。パラテコンドーは基本的に頭部への打撃はありませんが、それでも痛いものは痛いですね(笑)。
(第3回につづく)
<伊藤力(いとう・ちから)>
1985年10月21日、宮城県生まれ。中学は剣道、高校ではテニス部に所属した。2015年4月に就業中の事故で右腕を切断した。退院後はアンプティサッカーをプレーしていたが、関係者の紹介で16年1月から本格的にパラテコンドーを始める。4月にはアジア選手権に出場し、国際大会デビューを果たした。身長171センチ。階級は61キロ級。株式会社セールスフォース・ドットコム所属。
(構成・杉浦泰介)