二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2017.02.16
第3回 国際大会連敗からの逆襲
~東京へと踏み出す新たなチカラ~(3/4)
二宮清純:昨年1月からパラテコンドーに転向して、4月にはもうアジアパラテコンドーオープン選手権に出場しました。国際大会デビュー戦の感想は?
伊藤力:もうボコボコにされましたね。次のヨーロッパ選手権、11月にあったオセアニア選手権でも完敗でしたね。国際大会では今のところ3戦全敗(※)です。
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長):国際大会デビュー戦が世界ランキング1位のモンゴル代表選手だったとお聞きしました。
伊藤力:そうなんです。最初から相手は僕のことを初心者だろうと思ってガンガン攻めてきました。実のところ、そのレベルの攻撃への対応は全く練習できておらず、第2ラウンド終了時で1-13と大差をつけられてしまいました。テコンドーは第2ラウンド終了時点または第3ラウンド中で12ポイント差をつけられるとコールド負けになります。そう簡単に通用するとは思っていませんでしたが、正直、あっという間に試合が終わってしまいました。
伊藤数:手応えよりも、悔しさが残りましたか?
伊藤力:ええ。でも最初の大会で世界のトップと当たったことによって、3年後の目標が見えました。"ここにいれば世界1位を争えるんだ"と肌で感じられたことが、一番の収穫でしたね。
二宮:常に優勝を狙うようなレベルの選手と戦ったわけですから、自分の現在地も知ることができたわけですね。世界1位と対戦してみて、何が足りないと感じましたか?
伊藤力:足りないどころか何もなかったのかもしれません。1月の合宿に参加して本格的にパラテコンドーを始めたばかりで、数回の合宿でしか競技の練習はできていませんでしたから圧倒的に練習量が足りませんでした。
二宮:当時と比べれば、現在は練習量も違う?
伊藤力:はい。今は拠点を東京に移して、道場はもちろん、テコンドーの強豪大学にも出稽古に行って練習を積んでいますので、量に限らず質もどんどん上がってきていると思います。
【パラリンピックへの足がかり】
伊藤数:課題として取り組んでいることはありますか?
伊藤力:まだ体が硬いので柔軟性を高めていくことが課題です。かかと落としなどの技を見れば分かる通り、テコンドーは柔軟性が非常に重要。パラテコンドーに上段への攻撃はありませんが、柔軟性があれば蹴りが伸びる感覚を持てます。体をもっと自分の思い通りに動かせるようにしていくことが大事かなと思っています。
二宮:体を柔らかくするためにはどのようなことを?
伊藤力:主にストレッチなどで重点的に取り組んでいます。道場や大学での稽古とは別にジムへ行く機会を増やして、別メニューを組んで柔軟性も高めていきたいと思っています。
二宮:年内のスケジュールは?
伊藤力:大きな大会では5月にヨーロッパオープン。10月にはロンドンで行われる世界選手権が控えています。11月にはUAEのドバイでIWAS(国際車いす・切断者 スポーツ連盟)主催の大会。あとはアジア大会もあります。
二宮:そうなると、とりあえず一番大きな目標は世界選手権でしょうか?
伊藤力:今年はそうですね。世界選手権は初めてのチャレンジとなりますので、やはり大きな目標です。
二宮:3年後の東京パラリンピックに向けて、世界選手権はいい"腕試し"になりますよね。
伊藤力:はい。そのためにも2月1日に行われるUSオープンで結果を残したいです。
伊藤数:ずばりUSオープンの目標は?
伊藤力:国際大会ではまだ1勝もしていないので、まず1勝です。メダルを持って帰れるように頑張ってきます。
※USオープンK44(-61kg)クラスに出場した伊藤力選手は、アメリカ人選手を1ラウンドKOで破り、見事国際大会初勝利・初優勝を果たした。
(第4回につづく)
<伊藤力(いとう・ちから)>
1985年10月21日、宮城県生まれ。中学は剣道、高校ではテニス部に所属した。2015年4月に就業中の事故で右腕を切断した。退院後はアンプティサッカーをプレーしていたが、関係者の紹介で16年1月から本格的にパラテコンドーを始める。4月にはアジア選手権に出場し、国際大会デビューを果たした。身長171センチ。階級は61キロ級。株式会社セールスフォース・ドットコム所属。
(構成・杉浦泰介)