二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2017.03.30
第5回 メダルへの準備
~世界で煌めく金髪の卓球王~(5/5)
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長):リオデジャネイロパラリンピックに出場して他国の選手とはどの点に違いを感じましたか?
吉田信一:準備ですね。中国、韓国、ドイツなどのパラリンピック常連国の準備は"すごいな"と思うほど違いました。昨年2月のイタリアの大会で私は銀メダルを獲ることができましたが、5月のスロベニアとスロバキアの大会でいずれも予選敗退でした。つまりパラリピックが近付くにつれて、常連国は調整のペースを上げてきました。彼らは"出場するために何をすべきか""出場が決まってから何をするのか"のノウハウをきちんと分かっているんだと思います。
二宮清純:残りの3年半で具体的に強化すべき点は?
吉田:もっとミスをしないことを徹底しなければいけません。卓球は相手よりも1回多く返せばポイントを取れるスポーツです。私のスタイルは守りから攻撃に入ること。相手に打たせて、これでもかと凌ぐ卓球ですから。
二宮:守って守って、相手のスキを突く、いわゆるカウンター型ですね。
吉田:そうですね。粘り続けていれば、必ず相手もこちらが強打を打てる甘い球を返してくる。そのチャンスをいかに確実に決め切れるかどうかがカギです。
伊藤:普段の練習はどちらで行っているのでしょうか?
吉田:現在所属している情報通信研究機構にも卓球台があるので、練習はできます。基本的には国立にある障がい者スポーツセンターでトレーニングを積んでいます。でも障がい者スポーツセンターも改修工事が始まり、練習場所がなくなってしまう。レガシーのために競技場を新設、改修することは大事ですが、プレ大会をやらなければいけない時に会場がないんですよ。
二宮:それは困りますね。
吉田:2020年を目標にするために2020年につくり上げることだけではなく、そのほかにやることがあるでしょう、と。国際大会を開くことで選手だけではなく運営側のシミュレーションにもなるので、2020年東京パラリンピックに向けても、その先にとっても大事なことです。そういう機会をもっとつくって欲しいと思います。
【ゲームメイクの巧さが課題】
二宮:東京パラリンピックで吉田選手は54歳になります。体力的な衰えは感じないですか?
吉田:そこはゲームメイクでカバーできると思います。相手が弱い選手であっても気を抜くわけにはいかないですし、勝ち進めば必然的に試合数も増えます。体力も温存しなければいけないので、まず3セットをきちんと取り切ってストレートで勝ち上がっていくことが大事になってくると思います。
二宮:ゲームマネジメントが重要になってきますね。経験を積めば引き出しも増えていくのではないでしょうか。
吉田:そうですね。リオでの反省を生かし、10-7で勝っていたとしても、"7-10で負けている"との気持ちでプレーをすることを心がけています。相手に1点を取られたら終わり。たとえリードしていてもリードしていると思わないようにしています。
二宮:卓球は流れが傾くと、一気に点数が連続して入りますからね。
吉田:点差が開けば開くほど油断しがちですから、そこは常に意識しておきたいですね。
伊藤:改めて東京での目標は?
吉田:メダル獲得ですね。出場すればパラリンピックは2回目。次は出るだけでは意味がないと思っています。
(おわり)
<吉田信一(よしだ・しんいち)>
1965年12月13日、福島県生まれ。車いす卓球クラス3。17歳の時に交通事故で車いす生活となる。28歳で車いす卓球を始めると、国内外の大会で優勝した。2014年インチョンアジアパラではシングルスベスト8に入り、団体では銅メダルを獲得。2016年にはリオデジャネイロパラリンピックに出場した。世界ランキングは23位(2017年3月現在)。情報通信研究機構卓球部/ディスタンス所属。
(構成・杉浦泰介)