二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2017.04.06
第1回 水中の格闘技
~前向きに突き進むパラスポーツの鉄人~(1/4)
リオデジャネイロパラリンピックから正式競技となったパラトライアスロン。"鉄人レース"とも言われるハードな競技に日本代表として出場したのが木村潤平選手だ。木村選手は3大会パラリンピックに出場した水泳から転向し、リオでは自身4度目の大舞台を踏んだ。プールから飛び出し、新しい競技人生をスタートさせた木村選手。自国開催となる東京大会での飛躍に燃えるトライアスリートに訊いた。
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長):今回のゲストはリオデジャネイロパラリンピック日本代表の木村潤平選手です。木村選手はアテネ大会からロンドン大会までの3大会は水泳でパラリンピックを経験されましたが、リオでは新種目のパラトライアスロンに出場されました。
二宮清純:トライスロンはスイムからのスタート。やはり水泳でのアドバンテージはありましたか?
木村潤平:と、思ったんですが......。僕が水泳、言い換えると競泳で思っていたスイムと、パラトライアスロンでのスイムが全然別物だったんです。
伊藤:それはプールと海との違いでしょうか?
木村:そうですね。簡単に言うと、競泳の方が繊細な水に対する感覚や体の柔らかさなどが重視されます。パラトライアスロンのスイムは海や川を泳ぐので、そういう繊細さを感じている場合じゃないんです。
二宮:タフさが要求されるんですね。
木村:まさしくその通りで、どういう状況でも対応できなければいけません。
二宮:トライアスロンではスイム中に蹴とばされることもあると聞きました。水中の格闘技みたいなところもありますよね。
木村:はい。スイムは折り返し地点にブイがあって、そこを周って浜辺へと泳いでいくので、どうしても選手が密集して接触してしまうんです。殴るわけではないですが、体がぶつかり合いながら競技をします。プールで泳いだら僕より遅い選手でも、海では同等だったり、速かったりするんです。海のコンディションを見極める能力も必要ですし、ウェットスーツも着て体が浮いているためパワーでグイグイいけるのですが、僕は海外勢と比べてパワー負けしている。その違いに気づくのには結構時間がかかってしまいましたね。
【共に戦う「ハンドラー」の存在】
二宮:木村選手のクラスはPTHC(※)と呼ばれるものです。その特徴は?
木村:パラトライアスロンは主に立位、座位、視覚障がいの3つに分かれ、全6クラスあります。僕のPTHCは下肢障がいの方がメインとなります。0.75kmスイムをした後にハンドバイクで20kmを漕ぎます。3種目目が5kmのランで車いすレーサー(競技用車いす)を使用します。
二宮:中でもハンドバイクと車いすレーサーと道具を使用する種目が2つあるのが特徴的ですね。
木村:あとはクラスや障がいによってレースをサポートする「ハンドラー」や「ガイド」がいます。僕のPTHCではハンドラーとのコミュニケーションが大事で、種目が切り替わるトランジションもレースタイムに入るため、タイムを短縮できるように工夫しなければいけません。
伊藤:そのハンドラーはどこまでの範囲を担当するのでしょうか。
木村:スイムを終えて、陸に上がってすぐの場所にあるプレトランジションエリアまで地元のボランティアなど大会運営側が用意する人が運んでくれます。プレトランジションエリアからハンドラーがウェットスーツやシューズなどの着替えを担当します。ハンドバイクや車いすレーサーに乗り込むことや水分補給やサングラスの着用も補助してくれます。
二宮:ハンドラーはゴルフで言うキャディーのような役割に近いのでしょうか?
木村:それよりも選手に近いと思います。レースのタイムにも直結する大事なポイントですし、僕はハンドラーの方に「同じ競技者として一緒に闘ってください」とお願いしています。それだけ大きな存在ですね。トランジションでのコンビネーションを高めれば、それだけタイムの短縮も望めます。失敗しないようにレース前から綿密に打ち合わせをします。
※パラトライアスロンは障がいの種類、程度でクラス分けをされる。PTHCが座位、PTS2~5が立位、PTVIが視覚障がい。PTS2~5の4クラスは数字が小さいほど重度の障がい。
(第2回につづく)
<木村潤平(きむら・じゅんぺい)>
1985年2月14日、兵庫県生まれ。PTHC(旧PT1)クラス。先天性の下肢不全により、5歳の頃から松葉杖を使用する。小学1年から水泳を始めると、2004年アテネ大会から3大会連続でパラリンピックに出場。2014年インチョンアジアパラでは男子100メートル平泳ぎ(SB6)で金メダルを獲得した。2016年リオデジャネイロパラリンピックにはパラトライアスロンで出場し、男子PT1で10位だった。社会福祉法人ひまわり福祉会所属。
(構成・杉浦泰介)