二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2017.04.13
第2回 パラリンピックを目指す決意
~前向きに突き進むパラスポーツの鉄人~(2/4)
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長):木村潤平選手は水泳からパラトライアスロンに転向されましたが、水泳はいつ頃始められたのですか?
木村潤平:小学1年の時です。最初は小学5年の時に障がい者の大会に出ていたのですが、中学校に入ってからは健常者の同級生と一緒に部活をやっていました。パラリンピックを目指そうという意識はありませんでした。当時はパラリンピックに出場するための年齢制限があったり、健常者の世界で勝負したいという意識が強かったのもありますね。
二宮清純:健常者と泳いでいて、大変に思ったことはありますか?
木村:あまりないですね。そこは後天性と先天性の違いもあるかもしれません。僕は先天性なので、障がいを"当たり前"に思っていましたから。
二宮:パラリンピックを意識し始めたのはいつ頃でしょう?
木村:高校2年の時に一般の試合に参加していたところを、障がい者水泳の関係者に声を掛けていただいて障がい者での大会出場を薦められたんです。それで、国内最高峰のジャパンパラリンピックで優勝して、日本代表になって意気込んで臨んだ大会が、高校3年の時の世界選手権でした。しかし、僕は決勝にも残れなかったんです。
二宮:世界ですから、そう簡単にはいきませんよね。
木村:そうですね。実際に世界の大会へ行ってみると、自分よりも重い障がいのパラアスリートがものすごい泳ぎをしている。それまで一緒に泳いでいた一般の健常者よりも速い選手も多くいて、そこでさらにパラリンピックに興味を持つようになりました。"パラリンピックのすごさ"に気付かされ、"ここで自分もこの選手たちと勝負できる選手になりたい"と思ったんです。
二宮:大学2年で出場したアテネ大会が初のパラリンピックでした。男子100メートル平泳ぎ(SB6)で6位入賞。続いての北京大会は、1度パラリンピックを経験した分、大会に臨む気持ちにも変化があったのでは?
木村:全然違いましたね。北京パラリンピックの時は学生ではなくて、社会人2年目でした。当然、社会人としての責任も感じていましたし、会社からもサポートを受けていましたから"自分だけで戦っている"という感覚はありませんでした。
【パラトライアスロンの魅力】
二宮:ロンドンパラリンピック出場後にパラトライアスロンへ転向したのは、やはり水泳で培ったものが生かせると思ったからでしょうか?
木村:正直に言うと、パラトライアスロンはリオデジャネイロパラリンピックから採用される競技だったので、「初代メダリスト」という響きもカッコ良いなという魅力もありました(笑)。もちろんこれまで水泳をやってきた経験を生かしながらできるスポーツですから、アドバンテージを持って戦えると思ったことも理由のひとつです。それに実際にやってみたらスイム以外の種目も楽しかった。ハンドバイクはすごくカッコ良く見えましたし、バイクで出せるスピード感はすごく楽しかった。何よりもパラトライアスロンをしていて楽しかったんです。
伊藤:その他に魅力はどこにありますか?
木村:パラトライアスロンは選手同士が肩を貸してゴールをしても失格にはなりません。レーサー(競技用車いす)を漕いでいる最中にグローブを落としてしまった場合に他の選手が拾って渡しても、競技上は問題ないんです。これはパラトライアスロンの面白いところの一つです。
二宮:それはいいですね。ヒューマニズムを感じます。
木村:そうなんですよ。もちろん水泳は水泳の良さもありましたが、そういうところも僕はパラトライアスロンの面白くていいところだなと思います。
二宮:とはいえトライアスロンは鉄人レースと呼ばれるくらいですから、レース後の疲労感は生半可ではないはずです。それでもチャレンジしようと思った理由は何でしょう?
木村:水泳とパラトライアスロンの疲労感は別物ですね。水泳では100メートルや200メートルは、短い時間ではありますが、すごくきつかったです。泳いでいる時間は実質30秒とか1分半ですが、それまでの準備を含めると多くの時間を費やして臨んでいますし、一瞬の緊張感はすごくあります。パラトライアスロンは、レース時間が1時間前後あるので、当然疲れます。その1時間を他の選手との駆け引きも含めてレースの展開を考えるなど自分でレースマネジメントをできるので、とても面白いんです。そこが魅力であり、チャレンジする理由です。
(第3回につづく)
<木村潤平(きむら・じゅんぺい)>
1985年2月14日、兵庫県生まれ。PTHC(旧PT1)クラス。先天性の下肢不全により、5歳の頃から松葉杖を使用する。小学1年から水泳を始めると、2004年アテネ大会から3大会連続でパラリンピックに出場。2014年インチョンアジアパラでは男子100メートル平泳ぎ(SB6)で金メダルを獲得した。2016年リオデジャネイロパラリンピックにはパラトライアスロンで出場し、男子PT1で10位だった。社会福祉法人ひまわり福祉会所属。
(構成・杉浦泰介)