二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2017.04.27
第4回 自然とも闘うパラトライアスロン
~前向きに突き進むパラスポーツの鉄人~(4/4)
二宮清純:トライアスロンは自然とも戦うスポーツです。苦手な気象条件は?
木村潤平:僕は暑さが少し苦手だったんです。リオデジャネイロパラリンピックに出場する前、リオは暑いとわかっていたので、太陽を味方にするイメージをつくるメンタルトレーニングをしました。太陽がエネルギーをくれているというイメージに転換するんです。暑くてヘトヘトになってしまうというイメージを持ってしまうと体も動いてくれない。太陽がエネルギーを与えてくれるから、"もっと照ってくれ"という考え方になりました。
二宮:まるで光合成をしているみたいですね(笑)。
木村:ハハハ。でもそういうふうに思えるだけで、実際変わりますね。人間って脳で動いているんだなとよく思います。
二宮:木村潤平選手は現在32歳です。肉体的な衰えは感じませんか?
木村:一般的にはベテランと言われる年齢なので、水泳の時は感じたかもしれません。トライアスロンに関して言えば、リオデジャネイロパラリンピックに出場したPT1(現PTHC)クラスでは2番目に若かったんですよ。
二宮:なるほど。それだけ経験値がモノを言うスポーツなんでしょうね。
木村:経験値とパワーですね。パワーは年齢を重ねてもトレーニングで補える。そういう点ではパラトライアスロンは長く続けられるスポーツだなと思っています。パワーが大事だということはリオで身に染みてわかりましたから、今はウエイトトレーニングに力を入れてやっています。筋力もついたことで、ハンドバイクもレーサーもリオより速くなっている実感はあります。
【東京ではメダルを狙う】
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長):2020年は東京パラリンピックが開催されます。自国開催は木村選手にとってどんなものですか?
木村:モチベーションになりますね。東京でなかったら、リオで辞めていたかもしれない。
二宮:3年後のパラリンピックはリオで上位を占めた選手が優勝候補になってくると見ていますか?
木村:絶対そうだと思います。特に金メダルを獲った選手は東京でもメダル争いの中心になると感じています。僕自身、リオでは上位に10分以上の差を付けられました。それは大きな差に見えますが、僕自身はのびしろだと思っています。リオパラリンピックに出場した自分が言うのもなんですが、やっと自分はパラトライアスロンのことをわかってきた段階だと思っていますから。
二宮:経験を積んでいけば、上位も狙えると。
木村:そうですね。リオはガムシャラに突き進んで出場できたというところもあります。運もあったとは思いますが、これから何かきっかけを掴めれば、東京ではメダル争いもできる可能性は多くあると思っています。
二宮:頼もしいですね。パラトライアスロンを知ったことでさらにこの競技にハマっていったわけですか?
木村:はい。そして何よりも楽しかったということが、当時も今もパラトライアスロンを続けている理由ですね。水泳を1競技だけしている時とは違い、トライアスロンも始めたことで様々な競技をしている方と交流ができました。また、練習環境も海や山など様々な場所でトレーニングをするので、自分の視野が広くなったように感じますね。行動範囲も知り合いの幅も広がりました。パラトライアスロンはすごく魅力のあるスポーツです。今はまだ競技人口は少ないですが、もっとたくさんの人にチャレンジしてもらえるよう自分ももっともっと頑張っていきたいと思います。
(終わり)
<木村潤平(きむら・じゅんぺい)>
1985年2月14日、兵庫県生まれ。PTHC(旧PT1)クラス。先天性の下肢不全により、5歳の頃から松葉杖を使用する。小学1年から水泳を始めると、2004年アテネ大会から3大会連続でパラリンピックに出場。2014年インチョンアジアパラでは男子100メートル平泳ぎ(SB6)で金メダルを獲得した。2016年リオデジャネイロパラリンピックにはパラトライアスロンで出場し、男子PT1で10位だった。社会福祉法人ひまわり福祉会所属。
(構成・杉浦泰介)