二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2017.06.29
第5回 2020年以降にもつながるボランティアを
~2020年東京大会成功へ、汗かき役として動き回る~(5/5)
二宮清純:東京オリンピック・パラリンピックは2020年ですが、その前にも日本でのスポーツのビッグイベントといえば2019年ラグビーW杯があります。
丸川珠代大臣:そうですね。まずセキュリティに関しては、ラグビーW杯でしっかりできるかどうかが大事です。もしラグビーW杯の際にセキュリティの運用で問題が生じれば、オリンピック・パラリンピックでも起こりかねませんので、十分に準備しておくことが必要ですね。それとボランティアも重要ですね。ラグビーW杯は、今年の夏以降、キャンプ候補地が決まっていくので、早くから準備ができると思います。そして2019年を経験した方たちが、2020年のボランティアにも何らかの形で関わっていただければ心強いですね。
二宮:私が取材をしたオリンピック・パラリンピックの中で、ボランティアで失敗したのは北京大会だと思うんです。北京オリンピックの女子マラソンで土佐礼子選手がレース中に倒れてしまったことがありました。私は救助活動をしないといけないと思い、ボランティアに助けを求めたんです。しかし、「私は語学の担当です」「私は警備の担当です」などと言って、役割が違うことを理由に何もしてくれなかった。だからボランティアの役割が縦割りになりすぎると、困っている人を助けてあげられない。これは反面教師にすべきだと思いました。
丸川:困っている人に対する臨機応変なケアは担当が違ったとしてもできるようにしていきたいです。もちろん人の命に関わることは、すべての基礎としてボランティアの方たちに研修をしていただくことになると思います。
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長):世界中から障がいのあるお客様もたくさん来ると思いますが、「障がいのある人にどう声を掛けていいかわからない」という声をよく聞きます。せっかく「あの人、困っていそうだ」と気付いたのならば、声を掛けられるようになるといいですね。
丸川:我々が言う「心のバリアフリー」で実現したいことは、まさにそこのところです。戸惑っている間に物事が過ぎ去ってしまわないようにしなければいけません。戸惑ってしまう自分自身の心の壁がバリアなんだということを理解し、乗り越えていけるように研修をしたいと思っています。これはボランティアになる全ての方々に研修を受けていただきたいです。ボランティアではない方にも、その基礎の部分は身に付けていただきたいですね。日本を訪れた障がいのある方に「困ったことがあっても助けてくれる人がいるんだ」と安心してもらいたい。例えば何か目印となるマークを付けている人に声を掛ければ、手助けしてもらえるといったシステムをつくりたいですね。
伊藤:あるパラアスリートは「ロンドンパラリンピックのボランティアは私たちをアスリートとして迎え入れてくれた」と話しています。私どもSTANDが事業として行っているボランティアアカデミーでも、そういった選手たちの声をプログラムにして参加者に届けています。
丸川:なるほど。それはとてもいい試みですね。
二宮:さて、東京オリンピック・パラリンピック開催までは残り3年半を切りました。
丸川:そうなんです。リオデジャネイロ大会が終わって、もう7カ月経ったのかというのが正直な実感です。組織委員会も東京都も我々もこれからは具体的に行動していく時期だという認識で一致しています。我々はこれからも"汗かき役"として各省庁との間をつなぎ、うまく連携していけるように積極的に頑張っていこうと思います。そしてスポーツはエンターテインメントとして、とても価値があるものです。それだけの魅力があることをもう一度、認識し直して東京、日本だけではなくアジア全体を巻き込んで、スポーツを通じてつながっていこうと考えています。
【2017年4月24日、インタビュー実施】
(おわり)
<丸川珠代(まるかわ・たまよ)>
1971年1月19日、兵庫県生まれ。東京大学経済学部を卒業後、テレビ朝日に入社。2007年7月に参議院議員初当選を果たす。以降、厚生労働大臣政務官、参議院厚生労働委員会委員長、環境大臣・内閣府特命大臣(原子力防災担当)などを務めた。昨年8月に東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会担当国務大臣に就任。現在、東京オリンピック・パラリンピックに向けた環境整備などに尽力している。
(構成・杉浦泰介)