二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2017.08.24
第4回 先を見据えた雇用のかたち
~選手と企業、一体となって東京を駆ける~(4/5)
二宮清純: 西選手は昨年4月、野村不動産パートナーズに入社しました。パラアスリートの採用は初めてですか?
古郡宏隆(野村不動産パートナーズ取締役兼執行役員): 当社としても、グループとしても初めてです。
二宮: 採用に至った理由は?
古郡: 我々、野村不動産グループでは、ダイバーシティ(多様性)経営を掲げています。その中で当社はマンションやビル、商業施設といった生活に密着した建物を管理しており、お客さまの中には障がいのある方や様々な方がいらっしゃる。そこで西君の視点からの意見が反映できると考え、彼を採用しました。
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長): 西さんは最初からパラアスリートのいない企業で働きたいと思われたんですよね?
西勇輝: はい。僕が就職先を探しているとき、既にいろいろな企業がパラアスリートを雇用していました。でも僕はパラアスリートが在籍していない企業に入って、その環境を自分で整えてみたかった。
二宮: 実際に入社してみてどうですか?
西: 今は会社に相談に乗ってもらい、陸上と仕事を両立させるためにいろいろなことを一から決めています。本当にいい会社と出会えたなと思っています。
二宮: それは競技だけのことを考えた決断ではなかったと?
西: そうですね。自分がどういう人間に成長して2020年とそれ以降を迎えたいかを考えました。短期間アスリートとして在籍することより、もっと先を見据えた選択が大事だと思いました。だったら自分で環境をつくっていける企業がベストだと思ったんです。もちろん、そんな勝手な思いが通用するのか不安ではありましたが。
二宮: 西選手は入社2年目です。現在の競技と業務の割合は?
西: 普段は週2日、勤務しています。でも今年は「世界選手権に照準を合わせたい」とお願いして、スケジュールを競技中心にしていただきました。
二宮: 人事部所属ということですが、どういった業務を担当されているのでしょうか?
古郡: 当社ではマンションやビルの管理員を募集しています。求人は年間数百件あり、彼には、その担当をしてもらっています。競技で結果を残すことも大事ですが、彼に求めているのは会社の広告塔ではありません。当社で"この先も働きたい"という気持ちが彼にはあるので、今は少しずつ仕事を覚えているところですね。
伊藤: 役員の方から直々に指導してもらうこと自体、普通の企業では滅多にないことです。すごく素敵な環境にいると感じますよ。
西: それだけ期待していただけることを、とても感謝しています。"もっと人間的に成長しないといけない"と責任も感じています。
二宮: 社員も西選手を応援しているでしょう。
古郡: もちろんです。彼が世界選手権へ出場するにあたっては壮行会を開きました。彼を応援することで、社内がひとつになった部分もあります。"皆で応援していこう"という気持ちが広がったおかげで当社に限らず、グループ全体に一体感が生まれたんだと思います。
二宮: 西選手にとっても会社の応援や期待が励みに?
西: はい。実際に世界選手権でも応援が力になるということを実感しましたので、会社にはとても感謝しています。
(第5回につづく)
<西勇輝(にし・ゆうき)>
1994年2月14日、東京都生まれ。先天性の二分脊椎症。車いす陸上のT54クラス。小学5年で、車いす陸上と車いすバスケットボールを始める。しばらくは並行して競技を続けていたが陸上一本に絞った。2013年アジアユースパラゲームズでは日本選手団主将を務め、100メートル、200メートル、400メートルの3種目で金メダルを獲得。2016年アジアオセアニア選手権では、400メートルで優勝した。今年7月の世界選手権に出場し、200メートルでは8位入賞を果たした。好きなスポーツは野球。幼少期からの巨人ファンである。身長158センチ、体重58キロ。野村不動産パートナーズ株式会社所属。
<古郡宏隆(ふるごおり・ひろたか)>
2014年4月より野村不動産パートナーズ株式会社の取締役兼執行役員に就任。人事部、人材開発研修部担当を務め、人材の育成にも携わる。西勇輝選手が2016年4月に入社して以来、社会人として指導している。
(構成・杉浦泰介)