二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2018.05.24
後編 変わることで社会がハッピーに
~世の中の"当たり前"を変えたい~(後編)
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長): 「歩導くんガイドウェイ(屋内専用歩行誘導ソフトマット)」はたくさん受賞していらっしゃいますね。
太田泰造: はい。海外のいろいろな賞をいただいています。世界三大デザイン賞のひとつと言われている「iF Design Award 2016」の金賞をいただきました。パブリックデザインの分野では日本の企業初の受賞です。ドイツのデザイン賞の「German Design Award 2018」では2部門入賞、さらには国際ユニバーサルデザイン協議会が主催する「IAUDアウォード」の住宅・建築部門で銀賞を受賞しました。国外での使用例こそありませんが、世界で高い評価をいただいています。
二宮清純: 2年後の2020年東京オリンピック・パラリンピックは「歩導くんガイドウェイ」を国内外にアピールする絶好の機会と言えますね。
太田: はい。まずは少しでも多くの方に知ってもらうことが大事だと思っています。まだまだ認知が少ないので、メイド・イン・ジャパンの「歩導くんガイドウェイ」を発信し、世界中に広がっていく布石になればいいなと。2019年にはラグビーW杯もありますし、世界的イベントが続いていくので、そういうところで使っていただけるようにしたいですね。
二宮: 現在はどのぐらい普及されているのでしょうか?
太田: 病院、学校、社会福祉施設、金融機関、イベント会場などで使っていただいています。国内の盲学校では9割近く利用実績があります。盲学校の卒業式で卒業証書授与の時に役立っています。卒業生が自分1人で校長先生の元へと向かうことができるからです。床に紐を貼って生徒を誘導していたそうですが、うつむきながら歩いたり、ラインを外れてしまったりするケースがあったそうです。「歩導くんガイドウェイ」を使うことで、堂々と胸を張って1人で校長先生のところまで歩いていき、卒業証書を受け取ることができるようになったんです。本人はもちろんですが、それを見た親御さんにも喜んでいただいています。
伊藤: それはパラスポーツの表彰式にも応用することができますよね。陸上や水泳で、視覚に障がいのある選手は1人で表彰台に向かうことが簡単でないケースもあります。「歩導くんガイドウェイ」があれば、1人でメダルや花束をもらいに行くことできます。
二宮: それは素晴らしい!
【共生社会実現への一歩】
伊藤: 「歩導くんガイドウェイ」は両面テープで貼りつけるので、取り外しがきくのも良いところですね。大がかりな工事をしなくていいので、施設や大会を運営する側も導入しやすいと思うんですよ。
太田: 今後、パラスポーツ専用の施設を造ることは大事なことですが、お金も土地も必要になりますし、当然時間もかかる。「歩導くんガイドウェイ」であれば既存の施設をユニバーサルデザイン化して活用できます。簡単に設置できて、必要がなくなれば剥がすこともできるので非常にフレキシブルに使えます。利便性を上げれば、空間の価値を高められる。剥がせることのメリットで言えば、2020東京オリンピック・パラリンピックで使った「歩導くんガイドウェイ」を剥がして別の場所、たとえば地方の盲学校などに寄贈することができる。それもひとつのレガシーだと思うんです。
伊藤: 可能性が広がっていきますね。今後はどのような取り組みを?
太田: 現在、「歩導くんガイドウェイ」は現地に赴いて両面テープを貼って施工するんですが、いずれはテープを貼った状態で製品を出荷したいと考えています。お客様が簡単に貼り付けられるようになれば、施工コストもなくなりますからね。今はそれに向けた技術と設備を開発中です。それができればコストが下がり、もっと普及に繋がるかなと感じています。
伊藤: ところで太田社長は「世の中の"当たり前"を変えたい」という思いがあると伺いました。「歩導くんガイドウェイ」はまさにそのコンセプトにピッタリの製品ですね。
太田: 段差のないスロープ形状の「歩導くんガイドウェイ」を見て「これで本当に視覚に障がいのある人に分かるの?」と思われる方もいらっしゃいます。点字ブロックのように凹凸がなければわからないのではないかと。それが多くの人の"当たり前"になっている。でも実際は点字ブロックでなければ誘導できないわけではありません。他の方法でも可能なんです。当事者の方々は踏んだ感触、音、色の濃淡など様々な情報を取り入れて移動されています。
二宮: 今までは"これしかない"という考えにとらわれていたと?
太田: そうですね。選択できるようになれば、状況に応じてどうしたらいいのかを考えることにも繋がりますよね。「歩導くんガイドウェイ」はユニバーサルデザインに基づいた数ある製品のひとつに過ぎないかもしれませんが、これまで"当たり前"だと思い込んでいたマインドを変えることができるかもしれない。
二宮: 当たり前を変えることで"社会を変えたい"というわけですね?
太田: ええ。変わることに抵抗がある人もいますが、弊社が進めているのは変革です。新しいものを生み出すことで社会がハッピーになる。"変わることは悪いことじゃない"ということを、少しでも発信したいです。夢は世界的ランドマークで「歩導くんガイドウェイ」を使っていただくこと。今は認知拡大のため、実績をつくり、愚直にやり続けていくしかないと思っています!
(おわり)
<太田泰造(おおた・たいぞう)>
1972年生まれ。大阪府出身。1996年、近畿大学商経学部卒、富士ゼロックス株式会社入社。2001年10月に退社し、錦城護謨株式会社入社。土木事業部長、専務取締役を経て、2009年10月に代表取締役社長に就任した。同社で安心・安全なものづくりに取り組んでおり、歩行誘導ソフトマット「HODOHKUN Guideway」は世界三大デザイン賞のひとつ「iF Design Award 2016」の金賞を受賞するなど海外で高い評価を受けた。
(構成・杉浦泰介)