二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2018.07.26
後編 すべての人に機会の創出を
~共生社会のロールモデルに~(後編)
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長): 御社は初瀬さんとともに2017年9月に株式会社スタイル・エッジMEDICALを設立しました。
花咲圭祐: スタイル・エッジMEDICALは、障害の有無に関わらず1人でも多くの人が健康に生きられる社会の実現を目指しています。そのための事業のひとつがパーソナルトレーニングジムの運営です。ジムでは運動が「嫌い」「苦手」「続かない」という方々のために、一人ひとりに合ったトレーニングを設定しています。
二宮清純: 減量や体づくりにおいて結果を出すことに重きを置くジムもあります。その一方で顧客のニーズに応じて、緩い感覚で利用できるジムがあってもいい。
伊藤: 実際には「運動が嫌い」と言う人は多いです。そういった人に「運動するのも悪くない」「運動は楽しい」と思えるような機会を提供できればいいですね。
花咲: ええ。まさにジムでは利用者の方々に運動を苦しいことではなく、楽しいこととして習慣づけることを優先しています。
伊藤: 全国的に障害のある人がジムに通うのは難しい状況にあります。安全面などを理由に断られてしまい、会員になれないケースが多いと聞きます。スタイル・エッジMEDICALにはそういった現状を変えて欲しい。
初瀬勇輔: そもそもスタイル・エッジMEDICALの代表である僕もこのジムを利用しています。ですから、障害のある人を断ることはありません。あとは他のパラアスリートが訪れやすいような環境を整えたいですね。
花咲: スポーツが好き、嫌いは関係なく、また障害の有無にも関係なく、全ての人と運動を繋げていくことができたら、と考えています。
【共生社会実現へ】
二宮: ところで、今年3月に76歳で亡くなった"車椅子の物理学者"と呼ばれたスティーヴン・ホーキング博士は20代の時に筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症しました。それでも最先端の研究を担うなど、物理学で世界を牽引していました。共生社会の象徴的な存在ですね。
初瀬: 僕はホーキング博士がもし日本に生まれていたら、同じようなチャンスを得られなかったかもしれないと思っています。医療介護施設に入るしかなかったかもしれないし、研究に没頭することもできなかったかもしれません。だからこそ日本のホーキング博士が出てくるような環境をつくりたいんです。
二宮: 働いたり、学ぶという機会は誰でも平等に与えられる社会の方が健全ですからね。
花咲: ええ。弊社の事業を通じて、少しでも多くの人たちが働ける機会や運動をする機会、運動を楽しむ機会を増やしていきたいです。パラスポーツの専門家による講演なども企画し、彼らが活躍する場も広げたいですね。
二宮: 2020年東京パラリンピック開催により、国外から多くの障がいのある人たちが日本を訪れます。日本はハード面だけでなくソフト面でも成熟した社会として、その方たちを迎えることが重要になってきます。
花咲: そうした共生社会実現のために、弊社にはまだまだできることがたくさんあると思っています。士業・師業と一般消費者の方を結んだように、例えば企業と障害のある人たちを雇用で結びつける。またスタイル・エッジグループの持つノウハウを生かしつつ、パラスポーツの専門家と企業を繋ぐ、などです。
二宮: 初瀬さんが代表取締役を務めるユニバーサルスタイルは障害者の人材紹介を行っています。御社の障害者雇用にも寄与されていますか?
花咲: はい。初瀬さんからも「スタイル・エッジグループは障害者雇用に理解があり、多様性に満ちている会社」と言っていただけているので、これからも障害者雇用を積極的に進めていこうと思っています。
二宮: 今後はさらにその輪を広げていきたいと?
花咲: そうですね。弊社としてはクライアントにも障害者雇用を勧めていきたいと考えています。スタイル・エッジグループが起点となり、障害のある人たちと社会をもっと結びつけていきたい。パラスポーツへの支援も継続して行っていくつもりです。現役パラリンピアンであり、様々なスポーツ団体の協会理事を務める初瀬さんという心強い味方もいます。共生社会を実現するために、弊社が繋ぎ役として少しでも力になれればいいと思っています。そしてこれからの社会のロールモデルにしたい。それも共生社会実現への一歩になると考えています。
(おわり)
<花咲圭祐(はなさき・けいすけ)>
1985年生まれ。大阪府出身。2011年、株式会社スタイル・エッジ入社。各種士業クライアントのWebマーケティング支援、ハンズオン型のコンサルティングなどに従事した。その後、グループ会社である株式会社スタイル・エッジREALTYの設立から名古屋・大阪・福岡の支店拡大を経験。現在はスタイル・エッジの執行役員として人事部の統括とスタイル・エッジREALTYの取締役を兼務している。
<初瀬勇輔(はつせ・ゆうすけ)>
1980年生まれ。長崎県出身。法律家を目指していたが、中央大学在学中に緑内障により視覚障害になる。2005年、視覚障害者柔道を始める。その年の全日本視覚障害者柔道大会男子90キロ級で優勝。同級で2008年北京パラリンピック出場を果たす。2010年には広州アジアパラ競技大会で金メダルを獲得した。2011年、株式会社ユニバーサルスタイルを設立、代表。現役を続けながら、日本パラリンピアンズ協会、日本視覚障害者柔道連盟の理事も務める。2017年、株式会社スタイル・エッジMEDICALの代表取締役に就任した。
株式会社スタイル・エッジ
株式会社スタイル・エッジMEDICAL
(構成・杉浦泰介)