二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2018.08.30
後編 ボランティアの力で変える未来
~ちがいをちからに。パラリンピックを通じて社会を変える~(後編)
二宮清純: 東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年には海外から多くの方々が来日することが予想されます。オリンピック・パラリンピックという世界的ビッグイベントに街も大いに盛り上がるはずです。サッカーのワールドカップでは渋谷のスクランブル交差点に多くの人が集まりますよね。一方で、そういった"お祭りムード"をコントロールする必要もある。規制をかけすぎたら息苦しくなるし、野放図でもいけません。バランスがとても重要になってきます。
田中豊: 年末年始のカウントダウン、ハロウィンも同じで、自然と人は集まりますから、秩序を維持した中で楽しんでもらいたいですね。カウントダウンでは渋谷区がイベント運営に関わり、警察や関係機関にも協力いただき、秩序やルールを呼びかけ、安全に楽しむことを目指しています。バランスを考慮した転換例ですね。
二宮: 渋谷区はいち早く取り組んでいることがおおいですね。例えばLGBTのカップルを認定するパートナーシップ制度を導入するなど、多様性を尊重している印象が強いです。
田中: 「ちがいを ちからに 変える街。」を区の基本構想に掲げ、ダイバーシティ(多様性)を認め合う街を目指しています。東京2020パラリンピックはその輪を広げていく良い機会になると考えています。
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長): その渋谷区が独自に始めたのが「渋谷区独自ボランティア制度」ですね。
田中: そうです。例えば、東京2020大会で試合観戦後には、観客の方々がまっすぐ最寄り駅に戻って帰路につくとは限りません。東京は交通アクセスに優れ、街を回遊できる魅力的な環境もあります。「渋谷を観光してみよう」と思う人もいるはずです。そこで、渋谷区では寄り道や休憩、案内を行う"お休み処"を用意することを考えています。こういった区独自の活動をボランティアで支えていただこうとスタートした制度です。
二宮: 他の区との連携会議も行っていますか?
田中: 23区内では独自ボランティア制度を予定する区もありますので、東京都を含め意見交換をしています。競技会場内での案内や運営を担当する大会ボランティアと、競技会場の最寄り駅で交通案内などを行う都市ボランティアと、どう連携するのかを話し合っています。
伊藤: 東京オリンピック・パラリンピック組織委員会が運営する大会ボランティア、東京都が運営する都市ボランティアと渋谷区の独自ボランティアが"三位一体"となることが重要ですね。
田中: ええ。役割分担、配置などと、その連携が大きなポイントになってくると思います。渋谷区では、そうした体制をつくり、大会を盛り上げ、おもてなしを積極的に進めていきたいと考えています。
【2020年以降に繋がるレガシー】
二宮: 当然、区内でのほかの団体との連携も密にしていく必要がありますね。
田中: 区内の町会の中には会場の周りをパトロールしようとのアイデアもあるようです。そうした自発的な活動は大変ありがたく大事なので、うまく連携をとる必要があります。渋谷区のどこもかしこも来訪者を歓迎するムードでいっぱいになるようにしたい。それが東京2020オリンピック・パラリンピックの開催以降も日常的になることが、理想ですね。
伊藤: 独自のボランティア制度をスタートさせて、ここまでの手応えは?
田中: ボランティア登録のための講座を区内中学校で実施したところ、中学生の保護者世代の方々も受講してくださいました。これまでは割合的に少なかった世代の受講者が増えてきました。ボランティアに関わる全体の層を広げたいと思って始めたことですが、手ごたえを感じています。
二宮: ボランティアのレガシーという点では、災害などの有事の際に、ここで築いた人と人とのネットワークが生かせるのでないかとも思います。
田中: 有事の際に出番となる地元の消防団員や町会の方々の高齢化、人材確保が課題となっています。独自ボランティアが東京2020オリンピック・パラリンピックを契機に、地域との繋がりが生まれることで、災害対応やボランティアのノウハウを共有できるようになればと考えています。
伊藤: 2020年東京オリンピック・パラリンピック開催により、いろいろな人がパラスポーツやボランティアに興味を持ってくれている。これを開催後の社会に繋げていくことが重要です。
田中: 東京2020オリンピック・パラリンピックを経験した方々が、共生社会の担い手になると考えています。いろんな国や地域の人、障がいのある人と多く接する経験と交流を積み、大会後もそれらの知見を社会に広げていくリーダーとなっていただけたら嬉しいです。私たちも「オリンピック・パラリンピック競技リアル観戦事業」「渋谷区独自ボランティア制度」などを通じて、その力添えができたらと思っています。
(おわり)
<田中豊(たなか・ゆたか)>
1963年生まれ。東京都出身。1986年、日本体育大学体育学部卒、渋谷区役所に入庁。教育委員会社会体育課に専門職員として配属され、区民のスポーツ振興事業などを担当する。2016年4月新設の渋谷区オリンピック・パラリンピック推進課の課長に2017年に就任。東京2020オリンピック・パラリンピックに向けた気運醸成事業などに力を注ぐ。パラスポーツには1997年に立ち上げた知的障害者水泳教室から長年関わっている。
(構成・杉浦泰介)