二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2018.09.27
後編 まち全体の価値向上を目指して
~あらゆる人の移動をシームレスに繋ぐ社会へ~(後編)
二宮清純: 2020年東京オリンピック・パラリンピックでは、多くの観客が会場に訪れます。御社の音声ナビゲーションシステムは観客席のルート案内、座席案内にも活用できるのではないでしょうか。
那須原知良: まだ試してはいませんが、実現は十分可能だと思います。
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長): リオデジャネイロパラリンピックに行った際、会場で席を聞いたら、自信満々に間違ったルートを教えられました(笑)。例えばボランティア含め会場担当の人すべてが席を熟知するのは現実的ではありません。こんな時に音声ナビゲーションシステムがあれば、便利で助かります。
二宮: 専用のスマートフォンやタブレットを担当のボランティアがそれぞれ持っていて、チケットを照合すれば案内できるというかたちでもいいですね。
那須原: ボランティア専用のアプリもこれからはあるといいでしょうね。ボランティアの人が大きな会場の設備の位置関係を覚えたり、平面の地図で探したりするより、効率的で、ボランティア本人もですし、観客のみなさんの評価も上がるかもしれませんね。
伊藤: 会場を出入りする時にどこのゲートが混んでいるかが分かると便利ですね。音声ナビゲーションシステムの活用方法はまだまだたくさんあります。
那須原: そうですね。トイレの案内にも使えると思います。視覚に障がいのある人や車椅子利用者の方が、ようやく辿り着いたトイレに長蛇の列ができていたり、多目的トイレが使用されていたりするケースもあります。その際の混雑状況などが分かれば、スムーズな誘導ができます。2020年東京オリンピック・パラリンピックで満席を目指すにあたって、混雑に対応できるシステムが役に立つと思います。
二宮: ナビが人の代わりをできれば人手不足も解消できます。
那須原: 常に誰かが案内できれば問題はありません。でも、会場に限らず、すべての場所で人だけで万全する必要はないと思うんです。そこのところを技術でどこまでカバーできるか。それが弊社を含めた"技術屋"の役割だと思っています。
【2020年前後がチャンス】
伊藤: 音声ナビゲーションシステムを広めていくのに、2020年東京オリンピック・パラリンピック開催はいいきっかけになるのでしょうか?
那須原: そう思います。分かりやすい目標、期限が設けられた感じがあります。弊社もそこに向かってどれだけ力を尽くせるかが大事だと思っています。まだまだ足りていませんが、まずは一人でも多くの人に知っていただくことに注力しています。
二宮: 大会開催までは2年を切りました。手応えは?
那須原: 国内外の企業からも"こういったものがあった方がいいよね"という声をいただいています。これから少しずつ動き出していくのかなと感じています。音声ナビゲーションシステムは海外でも導入していただける話が具体的に進んでいるんです。まずは実証して判断していただく段階です。実用化に関しては海外の方が早いかもしれないですね。
二宮: 2020年東京オリンピック・パラリンピックの前年には、ラグビーW杯2019が日本で開催されます。これも海外から多くのファンがやって来るでしょう。音声ナビゲーションシステムが活躍し、認知されるチャンスですね。
那須原: ラグビーW杯2019以外にも2020年東京オリンピック・パラリンピックのプレ大会もあります。そういったところで使っていただき、改善点が見つかればバージョンアップしていきたいと思います。
二宮: 理想論としては、空港に着いてから会場の座席まで音声ナビゲーションシステムで辿り着けることでしょうか......。
那須原: そのためにはシステムの更なるバージョンアップも必要になります。さらに建物だけでなくまち全体がユニバーサルデザインになることも求められるでしょうね。
二宮: 共生社会の実現は本来、都市計画の段階で組み込んでおくべきことなんでしょうね。
那須原: そうですね。まだまだそういったところまで進んでいないのが実状だと思います。我々の事業は建物単体ではなく、まち全体の価値を高めていくことを領域として捉えています。例えば清水建設の本社ビルのある京橋エリア(東京都中央区)では、地域の企業と協議会をつくり、「共助」の仕組みづくりをとおしてまち全体の価値を高める活動も行っています。
伊藤: LCV事業を通じて、もっと地域へ、社会へ貢献を、という強い想いを感じます。
那須原: 弊社の事業の一つひとつが、共生社会の実現に役立てると思っています。建物を建てるだけでなく、まちや人も繋げていくことが大事です。そういったまちづくりにも関わりたいというのが弊社の目標の1つです。建物の価値向上がまちの価値向上に繋がることで新たなまちづくりの提案になるのではないかと考えています。
(おわり)
<那須原和良(なすはら・かずよし)>
千葉県生まれ。1981年早稲田大学大学院修了、同年清水建設入社。設備部、設計本部にて建築設備関連の施工や設計業務に従事した。2007年設計本部副本部長、2010年設備・BLC本部副本部長などを経て、2015年に執行役員就任。17年にスタートしたLCV事業の本部長を務める。現在、同社の常務執行役員。中学・高校時代にはバスケットボール部に所属。現在もゴールデンシニア(60歳以上)のアマチュアチームでプレーする。また地元の八千代市で20年以上、小学生にバスケットボールの指導をしている。
(構成・杉浦泰介)