二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2018.11.08
前編 パラスポーツからヒーロー、ヒロインを
~東京から広げる共生社会の輪~(前編)
東京都オリンピック・パラリンピック準備局は東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会及び2019年に日本で開催されるラグビーワールドカップを一体のものとして捉え、大会を成功に導く準備を進めている。その目的は同局によれば、「さらなるスポーツ振興及びスポーツの力で人と都市が活性化する『スポーツ都市東京』の実現」だ。今年4月に同局次長に就任した延與桂氏に、事業の手応えと今後の取り組みを訊いた。
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長): 東京オリンピック・パラリンピック開催まで、あと2年を切りました。延與さんは東京都スポーツ振興局競技計画担当部長時代から招致活動にも携わり、今年4月から東京都オリンピック・パラリンピック準備局の次長に就任しました。ここまでの手応えをお聞かせください。
延與桂: 当局ができたのが2014年1月です。その出発点から考えると、皆様の認知度も上がってきたと感じています。パラスポーツを応援する人を増やすプロジェクト「TEAM BEYOND」を立ち上げたのが2年前です。発足当初はまだテレビやニュースメディアでパラスポーツを取り上げられることが少なく、新聞に掲載される時は社会面でした。
二宮清純: 理解者を増やすために、どのような取り組みを?
延與: ポスターを掲出したり、イベントを開催したりとあの手この手でパラリンピック、パラスポーツの周知を徹底してきました。その手応えを実感し始めたのは、昨年の夏ぐらいですね。パラスポーツがメディアからこれまで以上に取り上げられるようになり、パラアスリートの露出も格段に増えてきました。今では民放のスポーツバラエティー番組にパラアスリートが出演することもあります。そんなこと昔では考えられなかったです。
二宮: 広告でパラアスリートが起用されることも増えてきましたね。
延與: はい。そういう意味ではパラスポーツやパラアスリートを目にする機会というのは、以前に比べれば爆発的に増加しています。今年のアジアパラ競技大会のニュースはかつてないくらい報道していただきました。やはり東京パラリンピック効果はとても大きいと思います。ただ一方で課題もあります。
伊藤: その課題とは?
延與: パラスポーツの大会を開催した時に、たくさんの観客を呼べるかどうかです。我々としては"どうすればもっと応援してもらえるだろうか""選手の顔を覚えてもらったらどうだろう"などと、いろいろなアイデアを練っています。今年度から力を入れていることのひとつがパラスポーツの観戦促進事業です。国内の競技団体(NF)が開催する国際大会を東京都が共催しています。NFと協力してイベントに元選手など競技の解説をしてくださる方を呼んでもらったり、集客に力を注ぎました。東京パラリンピックでもチケットを買って会場に来てくれる方をどれだけ増やすかが最大のテーマになっていますから。
二宮: ブラインドサッカーはパラスポーツの中で観戦チケットの有料化を早くから進めていますね。
延與: そうですね。我々は今年6月には観戦促進事業の一環で車いすバスケットボールの「三菱電機WORLD CHALLENGE CUP 2018」開催にも関わらせていただきました。観客は3日間で1万3000人を集めることができ、同大会の昨年比で6割増えました。でもパラリンピック本番で会場をいっぱいにするにはまだまだ足りない。パラリンピックはお祭りなので、"とにかく行ってみようか"と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、そこに期待するばかりではいられません。この先も競技のことを知った上で"見に行こう"と思ってくれる人も増やしたいと考えています。
【大事なのはポスト2020】
伊藤: そのために「TEAM BEYOND」で新たに取り組んでいることもあるのでしょうか?
延與: どのスポーツにも言えることかもしれませんが、やはりヒーロー、ヒロインとなる選手が必要です。そのためにまず今年はお気に入りのパラアスリートを見つけてもらおうと、パラアスリートカードを約20万枚作成しました。パラスポーツチップスにカードを付けてイベントなどで配布すると、結構好評なんですよ。
二宮: 昔から仮面ライダーなどのヒーローものやプロ野球選手のカードは人気ですよね。
延與: それにパラアスリートに実際お会いすると、すごく気さくで面白い方ばかりです。東京パラリンピックをきっかけに、選手たちのパーソナルな魅力も知ってもらえればうれしいですね。
二宮: 大会開催をきっかけにパラスポーツの認知度、人気が大きくアップする可能性を秘めています。
延與: そうですね。オリンピック・パラリンピックをただ開催するだけではありません。やはり東京都としては、大会運営のことだけではなく、この機会に観光プロモーションを仕掛けたり、インバウンドの環境を整える必要があります。都内の学校でもオリパラ教育に力を入れています。そこでパラリンピックの国際的な価値やユニバーサルな社会について考える機会が生まれると思うんです。スポーツ大会を開催するだけにとどまらない大きな波及効果がオリンピック・パラリンピックにはあると考えています。
二宮: おっしゃるように2020年以降のことは、とても重要ですね。
延與: ええ。新たに建設される競技会場は、この先も残るものです。どうやって使っていくかを考えることは必須でしょうね。
二宮: レガシーをどういかし、有効活用するかということですね。
延與: 過去の大会では建てたものの、使わなくなった競技場もある。やはり使わなくなるのが最大の無駄です。将来のことは先に決めた方がいいということはロンドン大会の関係者にアドバイスをいただきました。我々としても大会が始まる前に運営者を決めて、その後は責任を持って管理していただくよう進めています。早くから運営者を決めておくことによって、2020年以降の営業が先にできる。そうすることで大きな競技大会の誘致やコンサートやイベントにしても2020年より前にスケジュールを立てることができますから。2020年の先も競技会場をうまく活用できるようなやり方を進めていきたいと思います。
(後編につづく)
<延與桂(えんよ・かつら)>
1961年生まれ。東京都出身。1984年、東京大学教育学部卒業、同年4月に入都し、衛生局に配属。生活文化局女性青少年部副参事、知事本局参事、港湾局参事など経て、2012年4月よりスポーツ振興局競技計画担当部長に就任。オリンピック・パラリンピックの招致活動に携わる。2014年1月にはオリンピック・パラリンピック準備局大会準備部長に就き、2017年1月に同局の理事としてパラリンピック準備調整担当を務める。今年4月から次長に就任。パラリンピック準備調整担当と大会運営調整担当を兼務している。
(構成・杉浦泰介)