二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2018.12.27
後編 アジアから世界へ
~共生社会実現の足がかりへ~(後編)
二宮清純: アンプティサッカー日本代表は今年11月にメキシコで行われた第11回世界選手権(ワールドカップ)で参加24カ国中10位と過去最高の成績でした。
武田信平: 目標としていたベスト4には届かず、悔しい思いをしました。
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長): 世界と比べると日本の実力はどのぐらいなのでしょう?
武田: 日本のアンプティサッカーは、2008年にアンプティサッカー元ブラジル代表の日系三世エンヒッキ・松茂良・ジアスが来日したことがきっかけで始まりました。翌2009年には日本アンプティサッカー協会を立ち上げ、勢いに任せて2010年の第8回大会に初参加したのですが、結果は5戦5敗で16カ国中15位に終わり、世界との違いをまざまざと見せつけられました。これによって普及・強化に力を入れないといけないと考えたんです。それが日本選手権大会の開催を決めた理由です。
二宮: その成果は?
武田: 2012年の第9回大会は参加12カ国中最下位でしたが、2014年の第10回大会は24カ国中11位、今回大会は10位と少しずつ順位を上げてきました。今回大会は、予選リーグは突破したのですがラウンド16の戦いで敗退しました。目標の準決勝に進出するにはさらに実力を磨かなければならないと改めて実感させられた大会でした。
二宮: 世界では、どこの国が強いのでしょう?
武田: 過去の優勝国はロシア、ブラジル、ウズベキスタンで、今年はアンゴラが初優勝を果たしました。ウズベキスタンは最多4度の優勝を誇る強豪国です。特にヨーロッパは盛んですね。プロがいるという話も聞きましたし、ヨーロッパ選手権の決勝は約4万人の観客が集まるそうです。
二宮: それはすごい。
武田: 世界アンプティサッカー連盟(WAFF)に加盟している国を大陸別で見ると、ヨーロッパ14カ国・地域、アメリカとアフリカが10カ国です。アジアは日本、イラン、レバノン、ウズベキスタン、ベトナムの5カ国につい最近インドが加盟しました。それでも6カ国しかないんです。アジアが一番遅れています。中でも東アジアの加盟国が少ないですね。中国や韓国が積極的に取り組んでくれないかなと思っています。
伊藤: WAFFは世界の国々に対して普及活動は進めていないのでしょうか?
武田: 積極的な活動は行っていないですね。韓国、中国にもアンプティサッカーが広がれば、アジアの盛り上がりもこれまでとは違ってくると思うんです。それにパラリンピック競技種目に選ばれる1つの条件に、大陸内での選手権大会を開催することがあります。欧州、アフリカ、北米、南米ではアンプティサッカーの大陸選手権を開催しているのに、アジアだけができていないんですよ。
二宮: オリンピック同様、競技が世界的に広がりを見せないといけませんね。
武田: そうですね。それにパラリンピック実施競技はもう枠がいっぱいで、22競技からこれ以上増やせないと聞いています。もし1競技を新たに入れるのであれば、別の競技を外さなきければいけません。
二宮: おっしゃるように2020年東京パラリンピックでは、パラトライアスロンが追加され、脳性まひ者7人制サッカー(CPサッカー)が実施競技から外されました。
武田: 現状、パラリンピック競技に入るためには、それだけの高い壁があります。もしパラリンピックに選ばれれば、認知度も知名度も格段に違ってくると思うんですけど、なかなか大変なことですね。
二宮: そのあたりの課題をどうクリアしていくかも重要になってきますね。アジア全体を盛り上げるために、普及だけでなく強化にも力を入れないといけません。
武田: そうですね。先ほども申し上げたように今回のワールドカップでは強化の必要性を痛感させられました。世界の強豪国と伍していくには、国内リーグをスタートさせることと、強豪国との国際試合をやらないとダメですね。国際試合は遠征でもいいのですが、国際大会の運営経験を身に付けるという意味で、できれば日本で開催したいですね。欧州と南米からそれぞれ1カ国を呼んで3カ国で大会を開くのが現実的だと思います。国際大会では、主催国が滞在費と国内での移動費を負担するのが通例になっています。そういった意味でも2カ国を呼ぶのが現実的ですね。実は最近インドネシアやインドなどがアンプティサッカーのアジア大会開催に興味を示しています。大陸選手権という大きな大会を開く前に、数カ国でのアジア国際親善試合の開催も模索したいですね。今は東南アジア、東アジアでは日本の実力が抜けていますから、日本の強化にはならないかもしれませんが、対戦を重ねていくことでアジア全体の普及・強化にも繋がるはずです。
【地域密着で目指す】
二宮: 普及・強化の他にガバナンスの整備も力を入れていきたいとおっしゃっていました。理事長の武田さんを支える事務方が必要ですよね。
武田: 重要なのは事務局のきちんとした組織化ですね。今後のことを考えれば、事務局は専従の事務局員で運営したいですね。仕事を持ちながら事務局長として本当に頑張ってくれていた人がいたのですが、彼が大阪へ転勤になってしまったんです。専従ならばこういった心配をしなくてすみます。
二宮: 皆さん、ボランティアだから、こればかりはしょうがないですね。
武田: 本当に一生懸命取り組んでもらっていたので落胆は大きいです。その方には、メールベースでできる仕事や大阪での大会など、できる範囲での仕事をお願いすることにしました。事務局活動の中心は京浜地区が中心になりますので、新たな事務局長を探しているところです。
伊藤: そして理事長としてはサポートしてくれる企業を増やしていきたいということですね。
武田: そうですね。今はフロンターレ時代にもお世話になった川崎市内の企業や富士通やその関係会社などフロンターレを支えてくださった企業に協力していただいています。フロンターレに在籍していた時には地域密着、地域貢献に力を入れていたので、たくさんの方々とのネットワークができました。そういった活動を理解して、覚えてくださっている方々とのご縁に助けられていると思いますね。そして、先にも申し上げました認定NPOの取得も急務のひとつです。寄付がしやすくなることで協賛企業さんが増えてくれればと思っています。
二宮: フロンターレはJリーグの理念である「地域密着」の色が濃いクラブでもあります。アンプティサッカーも川崎市との連携を一層深めていきたいとお考えでしょうか?
武田: はい。日本選手権は川崎市と共同開催をお願いしています。また川崎市は今年度より「かわさきパラムーブメント第二期推進ビジョン」が策定し、自治体として、さらにパラスポーツに力を入れていく方針です。
二宮: フロンターレをはじめ、川崎市にはバスケットボールの川崎ブレイブサンダース、富士通レッドウェーブ、女子バレーボールのNECレッドロケッツ、アメリカンフットボールの富士通フロンティアーズなど強豪チームが多い。川崎市全体のスポーツが一丸となっていることは感じますか?
武田: 川崎市は以前から「スポーツのまち・かわさき」を推進しています。サッカー、バスケットボール、バレーボール、アメリカンフットボールが中心となって川崎のスポーツをもっと盛んにする。そうすることによって川崎をさらに明るく元気な街にしていこうとみんなが思って活動しています。そういう意味で各スポーツが一丸となっていると思います。私は、フロンターレ時代から川崎市と手を組んで「スポーツのまち・かわさき」の一翼を担ってきました。その成果はフロンターレのホームスタジアムである等々力競技場の入場者数に如実に表れていると思います。
二宮: その中でパラスポーツ、アンプティサッカーでも地域に根付いていきたいと。
武田: ええ。日本選手権大会や大阪でのレオピン杯コパアンプティサッカーでは小学生や女性も参加しますが、切断障がいを持つ方々が、障がいという垣根を超えて、性別や年齢に関係なくボールを蹴ることで、心身ともに心豊かな生活を過ごせるようになって欲しいというのが私たちの思いです。これからの社会においては、障がいの有無を超え充実した共生社会の実現していくことが望まれています。それをアンプティサッカーを通じて、世の中に広め実現していくことが我々の役割であると思っています。
(おわり)
<武田信平(たけだ・しんぺい)>
日本アンプティサッカー協会理事長。1949年12月11日、宮城県出身。中学入学と同時にサッカーを始める。仙台第一高校、慶應義塾大学を経て、富士通に入社する。現役引退後は電算機事業本部ソフトウェア管理部工務課長、ソフトウェア事業本部ビジネス推進統括部長などを歴任した。2000年12月、富士通サッカー部を前身とする川崎フロンターレの代表取締役社長に就任。企業色の強かったクラブの市民クラブ化を推し進めた。2015年4月に社長を退き、会長に就任。2016年4月に会長を退くと、日本アンプティサッカー協会の理事長に就いた。2016年7月から2018年6月、Jリーグの「クラブ経営アドバイザー」を務めた。
(構成・杉浦泰介)