二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2019.01.17
前編 多様性のまち
~川崎から巻き起こすパラムーブメント~(前編)
東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開催が来年に迫っている。神奈川県川崎市は開催都市でも準開催都市(競技会場が所在する自治体)でもないが、東京に近接する都市として「かわさきパラムーブメント」を推進し、2020年を契機に<すべての人が活躍できる社会>の構築を目指している。川崎市役所市民文化局担当理事で、オリンピック・パラリンピック推進室室長を務める原隆氏に、事業の手応えと今後の取り組みを訊いた。
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長): まずは「かわさきパラムーブメント」策定のきっかけを教えていただけますか?
原隆: 私どもは3年前にオリンピック・パラリンピック推進室を立ち上げました。川崎市の福田紀彦市長にはオリンピック・パラリンピックを契機に"障がいのある人に優しいまちづくり""誰もが生き生きと暮らせるまちづくり"をしたいとの強い思いがありました。特にパラリンピックに軸足を置いたまちづくりということで「かわさきパラムーブメント」がスタートしたんです。
二宮清純: 「かわさきパラムーブメント」ではどのような取り組みを?
原: 障がいのある方が身近な地区でスポーツに親しめる環境づくりを進めています。市内各区にはスポーツセンターがあります。ただ、障がいのある方がパッと来てスポーツするにはまだまだハードルが高い。だから「障がい者スポーツデー」をそれぞれの施設が設定し、イベント化する。障がいのある方に気軽にスポーツ体験をしていただく機会をつくっています。
二宮: その他には?
原: 市内の小学校にパラスポーツの魅力を伝える体験講座として「パラスポーツやってみるキャラバン」を実施しています。小学4年生は総合学習の時間があるので、2020年までに川崎市内の114校すべてにパラスポーツを体験していただこうと思っています。競技の選択は各校の自由です。
二宮: どの競技の希望が多いですか?
原: 現在のところ、車椅子バスケットボールの人気が高いですね。講座にはパラアスリートにも来ていただくので、パラスポーツを体験するだけではありません。パラアスリートにも話をしていただく機会を設けます。この取り組みは私立の小学校にも広げてやらせていただいています。
二宮: 体験会を通じて、よりパラスポーツが身近になりますね。
原: 何よりも体験する機会を増やしていきたいと思っています。スポーツでも文化でも好きなもの、得意なものを見つけてもらいたいんです。「かわさきパラムーブメント」で障がいのある方々の興味・関心を惹くような様々なきっかけを提供し、社会参加を促進することができればと考えています。
伊藤: 昨年8月には川崎駅に直結した複合商業施設のラゾーナ川崎で「かわパラ2018」を開催しました。市内におけるパラスポーツの認知度に変化を感じますか?
原: 数値化はしていませんが、認知度は上がっていると思います。このイベントは昨年で2回目となりますが、第1回と比べても反響がありましたから。ラゾーナ川崎には2、3万人もの観客が集まりました。
【共生社会の先進都市】
二宮: 川崎市は日本アンプティサッカー選手権大会を市内の富士通スタジアム川崎で開催しています。サッカー、バスケットボール、バレーボール、アメリカンフットボールなどスポーツが盛んな印象がありますが、パラスポーツにも力を入れていると聞きました。
原: はい。川崎市はパラスポーツの大会を積極的に誘致しています。アンプティサッカーの他、ブラインドサッカークラブチーム選手権、ジャパンデフバレーボールカップなどを開催し、パラスポーツを観戦できる機会を積極的につくっているんです。2017年にオープンしたカルッツかわさきは体育館とホールの複合施設で、電動車椅子サッカーなどの大会を誘致できたらと考えています。個人的には川崎を障がい者サッカーの聖地にすることを目論んでいます。
伊藤: 元々パラスポーツと縁の深いまちだったわけですね。
原: ええ。また川崎市は外国の方が多く、多様性のある土地柄です。「かわさきパラムーブメント」では、いわゆるマイノリティと呼ばれる方々の違いを個性ととらえようと考えています。「みんなの違いを活かせるチーム。障がい、年齢、人種やLGBT。いろんな個性をチャンスにしようと。川崎らしく、力強く。未来を変えていく力は私たちの中にある」というメッセージには、市民の意識が変われば、社会は変わっていくんだという思いが込められています。そして川崎市民を含めたひとつのチームなんだと。
二宮: そうした意味でも川崎市は共生社会の先進都市ですね。
原: ありがとうございます。多文化共生という言葉も行政から聞かれますが、使用し始めたのは川崎市が最初だと思います。元々そういう土壌があったんでしょうね。
二宮: 多様性のあるまちとはいえ、ひとつのチームになるということは簡単ではありません。
原: そのために私たちは「かわさきパラムーブメント」を推進していきます。みんなが認め合うことで誰もが社会参加しやすくなる。それが川崎市の願いですし、誰もが生き生きと暮らせるまちづくりに繋がります。
(後編につづく)
<原隆(はら・たかし)>
川崎市役所市民文化局担当理事・オリンピック・パラリンピック推進室室長。1961年、神奈川県出身。1979年4月に川崎市役所入庁。本庁や区役所などを経て、2011年4月に川崎市市民ミュージアム館長、2014年4月に川崎区役所田島支所長兼田島地区健康福祉ステーション所長を歴任。2016年4月より現職に至る。様々な部署での経験を活かし、東京2020大会を契機として全ての人が活躍できる社会を構築するために「かわさきパラムーブメント」の推進に尽力している。
(構成・杉浦泰介)