二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2019.04.11
前編 「する」「みる」「ささえる」の好循環
~未来へ繋ぐボランティア文化の醸成~(前編)
日本財団ボランティアサポートセンターは、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の成功と、ボランティア文化醸成を目的に2017年に設立された。理事長を務める渡邉一利氏は笹川スポーツ財団、日本スポーツボランティアネットワークの理事長も兼ねている。渡邉理事長に日本におけるスポーツボランティアの現状と課題を訊いた。
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長): 日本財団ボランティアサポートセンターは2017年6月に東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会と日本財団がボランティアの連携・協力に関する協定を締結したことで設立されました。協定締結に至る経緯を教えていただけますか?
渡邉一利: 日本財団と日本財団ボランティアサポートセンターは関連団体という位置付けになります。笹川スポーツ財団、B&G財団など他の関連団体を含め、ボランティアの育成やオペレーションに関する経験値がありました。その経験を生かし、何かお手伝いできることはないかと、日本財団の笹川陽平会長が東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の森喜朗会長と話し合いを持ち、そこで日本財団グループの知見を集結して、2020年の東京オリンピック・パラリンピックをサポートしようと決まりました。
二宮清純: そうして2017年9月に設立されたのが日本財団ボランティアサポートセンター。渡邉さんはその初代理事長に就任しました。
渡邉: なぜ私が理事長になったのかを申し上げますと、笹川スポーツ財団の理事長を務めているのが大きな理由でした。笹川スポーツ財団では東京マラソンの立ち上げから関わらせていただき、そこでボランティアの募集から研修、割り当て、当日のオペレーションを3年間行いました。東京マラソンのボランティアシステム構築と管理運営に携わっていたことになります。
二宮: そこで培った経験と知見をもとに2020年東京大会に貢献しようということですね。
渡邉: 2020年がひとつの目標であるのは間違いありません。ただ我々には果たすべき大きなミッションがあります。
伊藤: そのミッションとはどのようなものでしょうか?
渡邉: ひとつは大会の成功をボランティアの力で導きたい。そのために、リーダーシップや手話、英語など、ボランティアとして自信をもって行動するための研修や、パラスポーツ大会でのボランティア体験などを通じて、気運醸成を図っています。そして、もうひとつはボランティア文化を日本に醸成したいという大きな狙いがあります。
【ボランティアのレガシー】
二宮: なるほど。ボランティア文化醸成のカギはスポーツボランティアだと?
渡邉: はい。11万人を超えるボランティアの方たちが2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会で活躍されます。その内訳は大会ボランティアが8万人、都市ボランティアが3万人です。組織委員会は大会限りで解散しますが、その方たちがそれぞれの地域に戻った時にボランティア活動を継続していただきたい。スポーツボランティアは肩肘張らずに参加できるし、達成感も得られます。
伊藤: 例えば災害時のボランティア、地域や福祉のボランティアなどと比べても入りやすいということでしょうか?
渡邉: ええ。スポーツボランティアを入口として、その後はまちづくり、教育や福祉に関わっていけると思うんです。あとはあってはほしくないですが、日本は災害大国でもありますので災害ボランティアとしても活躍していただきたい。
二宮: 大会が終わってもレガシーとして残していくと。
渡邉: ボランティア活動を通じて、いわゆる地域の担い手になっていただきたいんです。それが我々の狙い。それともうひとつは、スポーツを「する」「みる」「ささえる」ことが、ひとりの中で循環することが大事だと思うんです。東京マラソンを例にあげますと、次のような効果がありました。運動は苦手だけど"ボランティアをやってみたい"とボランティアに参加された方が、それまで無縁だったランニングを始めたそうです。逆にランナーだけど倍率が高く抽選から漏れたのでボランティアに参加された方もいます。その方はボランティアの楽しさを知り、仲間が増え、病みつきになったという話も聞きました。
二宮: ささえる側とささえられる側がうまく循環している。とてもいいシステムですね。
渡邉: 健康寿命を延ばすためにもスポーツ実施率を高めないといけない。ボランティアをきっかけにスポーツをする習慣ができるのはとてもいい傾向だと感じています。みるスポーツとしても魅力を持っていただけるように環境づくりをしていきたい。おそらく2020年東京オリンピック・パラリンピックに触発されて、"スポーツをやってみよう""スポーツをみてみよう"と思われる方もたくさんいらっしゃると思います。いろいろな効果が期待される中で、大会成功、その後の社会のためにもボランティアが果たす役割も大きいのではないかと考えています。
二宮: 設立して約1年半が経ちましたが、日本全体にスポーツボランティアに対する気運の高まりは感じられますか?
渡邉: まだ点が線になるぐらいですね。全国のスポーツボランティア実施率は20年ぐらい変わっていないんです。国民全体の6%から8%。局所的には意識が高まっていますが、それが実施率に繋がっているわけではないのが実情です。ただ、興味・関心が高まっているのは確かですね。11万人を超える方がスポーツボランティアとして参加する2020年東京オリンピック・パラリンピックは、我々にとって千載一遇のチャンスだと考えています。今は線のボランティア文化が面に広がっていくように力を尽くしたいと思っています。
(後編につづく)
<渡邉一利(わたなべ・かずとし)>
日本財団ボランティアサポートセンター理事長。1963年、千葉県出身。早稲田大学卒業後、日本財団に入会し、主に経営企画業務を担い、組織経営論を実践で学ぶ。2005年から笹川スポーツ財団常務理事、2013年から同専務理事を務め、2017年6月から現在まで同理事長。2017年9月、日本財団ボランティアサポートセンター理事長に就任。スポーツ庁スポーツ審議会の健康スポーツ部会長も務め、深謀遠慮、知行合一を旨として「する」「みる」「ささえる」スポーツの振興に携わる。
(構成・杉浦泰介)