二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2019.05.30
後編 みんなが働ける環境づくり
~すべての人が対等に交われる社会を~(後編)
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長): 神さんが代表理事を務める一般社団法人パラSCエスペランサで行っている事業についてお聞かせください。
神一世子: NPO法人のCPサッカー&ライフエスペランサではCPサッカーだけを扱い大会、チームの運営を行っています。一般社団法人パラSCエスペランサの方ではすべての障がいのある人たちが対象で、放課後等デイサービス、就労支援事業の2つを行っています。放課後等デイサービスでは障がい児のためのサッカー教室「エスペランサNEXT」を毎日開催していて、川崎市の富士通スタジアムをお借りしています。
二宮清純: 残念ながら親の理解度や収入によってはスポーツをやりたくてもやれない子もいっぱいいるでしょうね。
神: それも感じています。NPO法人でやってきた頃は、CPサッカーの練習や試合に毎週家族総出で来ていただいているケースもあります。「それが当たり前だと思ってはいけないよ」とみんなには話しています。エスペランサNEXTでは事業としてやっているので、必要な場合はお迎えにも行きます。教室ではサッカーを通していろいろな経験をすることを目的としています。より多くの地域で広がり、授業が終わった後、気軽にスポーツができる場所が増えていければ一番かなと思っています。
伊藤: 例えば、全国の学童クラブなどにエスペランサさんのプログラムがフランチャイズとして広がっていくと、障がいの有無に関わらず、放課後の子どもたちが一緒にスポーツする環境が整っていきますね。
神: 同じ障がいのある人同士でやる良さもありますが、おっしゃるように下校後に健常の子どもと一緒にスポーツをできる場所があるといいなと思いますね。
二宮: 共生社会の実現を目的とするなら、健常者と障がい者が一緒にプレーする形をとったほうが自然でしょうね。
神: CPサッカーをやっている子の中にも最初は健常のサッカースクールに入ったんだけど、ついていけなくなってうちにきましたというケースもあります。一方、CPサッカーで自分ができるという自信をつけて健常者のサッカースクールに戻った子もいました。
二宮: 互いに出入りできる方がいいですよね。
神: ええ。エスペランサでいろいろな経験をして自信をつけてどこにでも飛び込んでいける子になってくれたらいいなと思っています。
【自立を目指す】
伊藤: 2017年には障がい者の就労支援事業のひとつであるE'sCAFEを、東京都多摩市でオープンしました。
神: パラスポーツの課題のひとつに仕事とスポーツを上手く両立できないことがあげられます。それは趣味でパラスポーツをやっている人たちも自分でお金を稼げるようになったけど、なかなか休んだり時間をつくるのが大変になり、段々足が遠のいてしまうこともあります。それが寂しいなと思い、将来ちゃんと働いていけるということを子どもたちがイメージできるようにと働ける場所をつくりました。
二宮: 現在はリニューアルされたと伺いました。
神: ベテランの料理人の方に加わってもらい、これまでとは提供するメニューなどが変わります。E'sCAFEはフットサルコートが隣接しているので、勤務時間の前後にサッカーをやることも可能な環境です。もちろんスポーツは苦手だけどカフェで働きたいという方もいらっしゃいます。カフェとしては、もっと雇用できる人が増えたらいいなと思っています。実際、カフェをオープンしてみて、私たちが"ここまでしかできないだろうな"と考えていた以上のことができる人たちはたくさんいます。だから意外とできないと思っていたことはこちらが勝手に決め付けてしまっていたと反省しています。
伊藤: その他にも就労支援は行っているのでしょうか?
神: 先ほどお話したエスペランサNEXTの管理者は元CPサッカーの選手です。彼の場合は福祉の業界に興味があって勉強して、ずっと福祉の業界で働いていました。私がここを立ち上げる時に転職して来てもらったんです。他にも指導員としてCPサッカーの選手が働いていたことがありました。また他の企業に勤めている人は会社の理解をいただいて、週に1回はエスペランサに来ることを仕事として認めてもらうケースもあります。選手の中にもサッカーに携わる仕事や指導がしたいという人もいるので、そういう人たちの機会になればいいのかなと思っています。
二宮: 日本CPサッカー協会は日本財団パラリンピックサポートセンターに事務所があります。常駐で働いている方はいらっしゃるんですか?
神: 協会の方は事務局に1人。CPサッカー協会には専従の有給の職員がいて、基本的には協会の事務を担当しています。
二宮: 障がいのある人を事務職として働いてもらってもいいんじゃないでしょうか。
神: そうですね。エスペランサでも障がいのある人が運営もできるということを目指しています。また彼らが仕事をしたいと思った時に、働き口がきちんとあって選択できるといいと思っています。
二宮: 今後の方向性は?
神: 今はパラリンピックサポートセンターに入居していることで、得られるメリットが多い。だから2020年以降、そこを出た後も今以上の活動ができるように事務局の体制や資金をしっかり調達することが必要になってくると思います。
伊藤: お聞きしていると夢がいっぱいですね。
神: じっとしていられなくて、やりたいことだらけです(笑)。エスペランサにも新しいスタッフも入ってきたりだとか、ボランティアでも積極的に関わってくれる人もいるので、さらに発展できていければいいなと思っています。この事業に情熱を持って入って来てくれたスタッフたちがここで生活ができないとなかなか続けていけない。だからこそ事業として成り立つことを証明できればと思っています。こういった事業をやりたい、働きたいという人をもっと増やしていかなければいけないと感じています。
(おわり)
<神一世子(じん・いよこ)>
一般社団法人パラSCエスペランサ代表理事。神奈川県横浜市出身。関東学院大学卒業後、旅行代理店、損害保険会社、特例子会社等に勤務。1999年より、一般社団法人日本CPサッカー協会の立ち上げに携わり、CPサッカー日本代表のチームマネージャー、事務局長を経て、2016年に協会理事(副会長)に就任した。一般社団法人日本障がい者サッカー連盟発足後、理事に就任。2018年より副会長を務める。2012年、特定非営利活動法人CPサッカー&ライフエスペランサを設立。2015年には一般社団法人パラSCエスペランサを設立し、エスペランサNEXTにて障がい児のサッカースクールを開所。2017年には、障がい者就労支援事業所となるE'sCAFEをオープンした。
(構成・杉浦泰介)