二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2019.06.27
後編 個が組織を成長させる
~"ワクワク"に繋げる仕事のカタチ~(後編)
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長): 今後「ソトカツサポート制度」をどのように進めていきたいとお考えですか?
松下昇平: 今年はラグビーワールドカップ、来年は東京オリンピック・パラリンピックとビッグイベントが開催されます。今後はパートナー(従業員)がもっと積極的に制度を活用できるようにしたいと思っています。
二宮清純: 御社としては福利厚生の一環という扱いでしょうか?
松下: 表現が難しいですが、福利厚生ではないと思っています。この制度は結果として会社の成長のためにパートナーが活躍できる場所をつくるものだと考えています。
二宮: 福利厚生と聞くと、やや内向きに感じますからね。
松下: そうなんです。福利厚生とすると制度を利用しやすい方と、利用しにくい方がいらっしゃるんです。そこで損か得かという議論になってしまう。例えば"あの人は利用できるから得だけど、私は利用できないから損だ"と。しかし、「ソトカツサポート制度」は損得ではなく個人が成長していくために利用するものです。さらに弊社では多様性のある働き方のひとつとして、リモートワーク制度を導入しています。今年からは週5日のリモートワークも認めています。
二宮: リモートワークとは、つまり在宅勤務も可能ということですね。
松下: そうですね。週4日か5日リモートワーク制度を利用された方には手当てを出します。オフィスで働くよりも成果が出る場合に利用できるようになっています。働く場所は自宅に限りません。コワーキングスペースでもカフェでもいいんです。弊社は、ちゃんと成果を出せるならばオフィスで働く必要はないと考えています。各部署に運用は任せていますが、作業を監視するようなことはしていません。
二宮: 制度自体が自主的運用になっているんですね。
松下: 「ソトカツサポート制度」同様に、大事なのはオフィスで働くことではなく、最終的に成果に繋がればいいんです。
二宮: 今やパソコンなどで行える業務はオフィスに出社しなくてもできます。リモートワーク制度を導入する企業であれば通勤の困難な方でも働くことが可能になる。通勤が困難な障がいのある人も採用しやすくなりますね。今後は障がい者雇用も推進していくと?
松下: はい。リモートワーク制度を進めることで、障がいのある人が働ける環境づくりにも繋がると考えています。いろいろな働き方があることで、弊社に魅力を感じてもらえる理由にもなります。リモートワーク制度を利用すれば、オフィスから離れた土地へ引っ越しをした場合でも業務を続けることができます。弊社にも旦那さんの転勤でシンガポールへ引っ越しをした女性パートナーがいます。リモートワーク制度を導入していなければ、それを機に退社する人もいるかもしれませんが、彼女の場合は今も仕事を続けています。
二宮: リモートワーク制度が成功すれば、それがロールモデルになります。いずれは多くの会社でオフィスが必要なくなるかもしれませんね。
松下: ええ。オフィスはあくまで働く環境のひとつに過ぎません。"仕事はオフィスですべきもの"。そういう固定概念は弊社にはないんです。膝を突き合わせて議論したい、出社した方が業務に集中できる、ということであればオフィスで仕事をすればいいですし、個人のライフステージの状況から家で業務を行いたい場合や、通勤ができない、非効率といった場合には自宅で仕事をすればいいと思っています。
【"楽しむ"ことが大事】
二宮: 御社として今後のスポーツとの関わりは?
松下: 企業とスポーツの関わり方は様々なケースがあると思いますが、弊社としては個人にフォーカスしています。スポーツに対してもそれぞれ個人の楽しみ方や好みがあると思うんです。応援をしたい人もいれば、自らが参加したい人もいます。それを望むパートナーを会社が邪魔をしない。弊社はそういう関係でありたいんです。
二宮: 「ソトカツサポート制度」もその一端だと?
松下: その通りです。ラグビーワールドカップ、東京オリンピック・パラリンピックについては、「ソトカツサポート制度」でボランティア活動に参加しやすい仕組みをつくりました。これはボランティアという切り口ですが、そもそもの始まりはパートナーがワールドカップやオリンピック、パラリンピックなどのイベントを楽しんでほしかったんです。
伊藤: おっしゃるように、チケットを買って観戦に行きたい人もいれば、ボランティアで参加したいという人もいます。楽しみ方は人それぞれです。2020年東京オリンピック・パラリンピック開催に、期待することはありますか?
松下: 自国でオリンピック・パラリンピックが開催されることなんて、滅多にない経験です。パートナーの皆さんにはそれぞれの楽しみ方で楽しんでいただきたい。それが回り回って会社の成長につながっていけばいいと思うんです。まずは存分に楽しんでいただく。それを周りも気持ち良く受け入れられるような環境をつくっていきたいです。
二宮: 旅行会社や建設会社はオリンピック・パラリンピック効果がわかりやすい会社と言えます。御社の場合、オリンピック・パラリンピックをどう会社の成長に繋げたいとお考えですか?
松下: 事業という点ではGMOクラウドグループの中にGMOグローバルサインというセキュリティー分野を生業にしている会社があります。オリンピック・パラリンピックで日本に世界中から注目が集まることにより、国内の企業のシステムがセキュリティーリスクにさらされやすくなる。その対策を検討しなければならない意味で事業にとっては、2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催がセキュリティーへの意識を向上させるきっかけになると思います。
二宮: オリンピック・パラリンピックでいろいろなことが変わりますね。
松下: ええ。「ソトカツサポート制度」に対する理解が世の中に広がれば、柔軟性を持った働き方を受け入れられる環境づくりに繋がるはずです。それはリモートワーク制度を推進していくことも同様です。東京オリンピック・パラリンピックはそういった意味で、社会に大きな変化を生み出してくれるきっかけになると思っています。
(おわり)
<松下昇平(まつした・しょうへい)>
GMOクラウド株式会社取締役グループコーポレート部門担当兼社長室長。大阪府生まれ。2007年立命館アジア太平洋大学卒業、同年住商リース株式会社(現三井住友ファイナンス&リース株式会社)入社。2011年中小企業診断士登録。同年GMOクラウド株式会社に入社し、2013年社長室長、2015年マーケティング部長兼社長室長、2016年コーポレート部長兼社長室長を経て、2017年に取締役就任。中学・高校時代には水泳部に所属。現在はマリンスポーツ、登山を習慣としている。
(構成・杉浦泰介)