二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2019.08.29
後編 豊富なハードをレガシーに
~"スポーツと人情が熱いまち"を発信~(後編)
二宮清純: 鳥谷部さんは今年4月に江東区オリンピック・パラリンピック推進室オリンピック・パラリンピック推進課長に就任しました。
鳥谷部森夫: 正直、予想はしていませんでした(笑)。ただ2017年4月からの2年間は交通対策課長を務めており、東京2020年大会における区内の関係者・観客輸送に関わっていました。前任のオリンピック・パラリンピック推進課長が3年務めていたこともあり、そろそろ新しい課長になるかな、とは思っていたのですが......。
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長): 現職に就いてから、パラスポーツを体験されたとうかがいました。
鳥谷部: ええ。ボッチャ、車いすバスケットボール、ブラインドサッカーなどを体験しました。ボッチャは取り組み易い競技ではありますが、奥が深く面白い。車いすバスケでは競技用車いすに乗り、操作の難しさを知りました。ブラインドサッカーはボールの音を聞き取るのも大変でした。体験してみて競技の面白さ、パラアスリートのすごさを改めて感じることができました。私は現職に就いてからパラスポーツに関わるようになりましたが、所管じゃない人たちがもっと競技に触れられるようにパラスポーツを広げていきたいと思っています。
伊藤: カヌー部があるのは珍しいですね。パラカヌーでリオデジャネイロパラリンピック8位入賞の瀬立モニカ選手は江東区出身です。
鳥谷部: ええ。区の職員でも、パラカヌーで世界選手権に出場経験のある選手がいます。江東区は公立中学校としては珍しく2008年度にセーリング、2009年度にはカヌー、女子サッカーの部活動をスタートさせました。カヌー部創部は東京都で初めてです。現在はパラカヌーの選手輩出事業も行っており、区内の東雲運河などで練習をしています。パラリンピック会場と似た環境で練習ができることは選手にとっても大きなメリットだと思います。
二宮: 江東区はパラスポーツに対して理解が深いんでしょうね。
鳥谷部: 山﨑孝明区長は「パラリンピックの成功なくして2020年東京大会の成功はないんだ」と、よく言っています。区として「パラリンピックをどう盛り上げるか」は重要なテーマですね。
伊藤: 気運醸成のため、様々なイベントを実施されていますね。
鳥谷部: 「KOTOスポーツキャラバン」ですね。昨年度は体験会がメインでしたが、今年度からは回数も増やし、さらにトップアスリートを呼びました。トップレベルのパフォーマンスの迫力、速さ、正確さなどを生で感じてもらおうと思っています。パラスポーツ、パラリンピックをどう盛り上げて行くかは常に考えています。
二宮: 具体的にはどのようなビジョンを?
鳥谷部: パラリンピックの競技会場が盛り上がることが大事だと思います。ボッチャは区内の有明体操競技場で行われます。ボッチャに関しては江東区の教育委員会も力を入れており、学校で交流会を実施するなどいろいろな取り組みを行っています。そのおかげで、区内でボッチャの体験イベントを開催すると、子どもたちの行列ができるほどです。
【ギアをトップに】
二宮: 江東区は東京オリンピック・パラリンピックの競技会場が一番多い自治体です。大会後の利用が大事になっていきますね。
鳥谷部: まさにそうなんです。海の森水上競技場は今後も大きな大会の試合会場として使用されます。東京辰巳国際水泳場は水球の会場ですが、大会後はアイスリンクにする計画が発表されています。今後は国際障がい者スポーツ大会なども開催されるのではないでしょうか。
二宮: オリンピック・パラリンピックのレガシーに触れることができるのは、住民としてはうれしいですね。
鳥谷部: 区長がよく口にする「ハード面のレガシー」ですね。施設は東京都の所管になりますから、大会後の利用については、これから具体的な内容が示されると思います。区としてはいろいろと要望を出しながら、活用していきたいですね。
二宮: 江東区では国内外に区の魅力を積極的・戦略的に発信するため、「江東区ブランディング戦略」を策定しました。鳥谷部さんが考える江東区の魅力は?
鳥谷部: まずブランドコンセプトにある"スポーツと人情が熱いまち"ということです。スポーツ施設もたくさんあり、先ほど例に挙げたカヌーや女子サッカーなど学校においてもいろいろなスポーツに取り組んでいます。加えて江東区は昔ながらの人情も残っているまちです。江東区は新旧があるまち。下町情緒溢れる深川・城東地区と、発展著しい臨海部の2つを有するところが魅力だと思います。
二宮: なるほど。大田区は町工場のつくる"下町ボブスレー"が2014年ソチオリンピックの際に話題になりましたが、オリンピック・パラリンピックに関わるもので江東区産はありますか?
鳥谷部: 競技用義肢装具を製作する会社は区内にあるとは聞いています。また江東区は木場や新木場という地名を見ても分かるように伝統的に木材業が有名です。新設や仮設の競技会場建造に木材を活かしたつくりになっていると聞いています。
伊藤: 東京オリンピック開幕まで、あと1年を切りました。今後の展望をお聞かせください?
鳥谷部: ラストスパートです。やりたいことはいっぱいありますが(笑)、あまりにも調整事項が多岐にわたるので、まずはひとつも事故なく進めていきたいです。都や大会組織委員会と連携して、大会を盛り上げていくことはもちろん、区の事業としても「KOTOスポーツキャラバン」で気運醸成を図り、「江東サポーターズ」を成功させたい。東京オリンピック・パラリンピック後もまちが発展していくよう職員一丸、ギアをトップに入れてやっていきます。
(おわり)
<鳥谷部森夫(とやべ・もりお)>
江東区オリンピック・パラリンピック推進室オリンピック・パラリンピック推進課長。1973年、東京都出身。大学卒業後、私立高校非常勤講師(国語)を経て、1999年4月に江東区役所入庁。2015年4月に豊洲シビックセンター開設準備担当課長、2017年4月に交通対策課長を経て、2019年4月より現職。東京2020大会に向け、区独自ボランティア「江東サポーターズ」の運営や気運醸成事業、関係機関との調整に力を注ぐ。趣味は、読書と野球観戦(阪神タイガース、東京六大学野球)。
(構成・杉浦泰介)