二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2019.09.25
後編 イノベーティブな大会
~通信が生みだす新たなスタイル~(後編)
二宮清純: 1964年の東京オリンピック・パラリンピックでユニットバス、冷凍食品などが生まれ、いろいろなイノベーションが起こりました。例えば御社であれば、2020年はどのようなイノベーションが目玉になるのでしょうか?
古野徳之: 振り返りますと、前回の東京大会は新幹線、高速道路、モノレールといった社会基盤(インフラストラクチャー)が、大会開催に向けて一気に整備され、その後の日本経済の発展を支える礎になったというのは皆さまも同じ印象かと思います。今回の東京2020大会の大会ビジョンの中には「史上最もイノベーティブで、世界にポジティブな改革をもたらす大会」と記されています。前回の「新幹線」に相当するものは一体何だろうかということを考えた時に、来年春に開始予定の5G通信サービスが、今回の東京2020大会を象徴するイノベーションになるのではないかと思っています。
二宮: 5Gと、これまでの4Gとの違いは?
古野: 簡単に言うと4Gよりも通信速度が速くなり、大容量になります。また遅延も少なく、たくさんの端末を一度に接続することができます。ドコモとしては、来年の春頃にサービス開始を予定しております。そういう意味では、今回のオリンピック・パラリンピックは、サービス開始後の5G通信を使って初めて迎える世界的なビッグイベントとなるわけで、ドコモとしても、東京2020大会を5Gの最大のショーケースとしてとらえていますし、世界中から、たくさんの注目を集めるいい機会になると考えています。
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長): 具体的にどのようなことに取り組んでいくのでしょうか?
古野: 具体的な内容はまだ秘密です(笑)。ですが、皆さんを「アッ」と言わせたいと思っていますので、是非、楽しみにしていてください。5Gの取り組みの前に、ドコモとしては、東京2020大会の成功に向けて、まずは競技運営や観戦を支える通信ネットワークをしっかり整備し、安定した通信サービスを提供したいと考えています。
二宮: 通信を安定して使えるのは、観戦者にとってありがたいですね。
古野: ええ。まずは、安定した通信サービスを提供した上で、新しい観戦スタイルを提供したいと考えています。例えば、複数の角度からの映像や選手のデータをひとつのデバイスで視聴できるようなものを提供できればいいなと思っています。
【2020年以降も受け継がれるDNA】
二宮: 例えばVR(仮想現実)技術を駆使すれば、パブリックビューイングでも、まるで現地で観戦しているようなリアルな体験を味わうことができますよね。
古野: そうですね。場所や時間を選ばずに試合を楽しめる観戦スタイルも提案していきたいと思っています。そういったソリューションを支える技術的基盤のひとつが5Gだと考えています。先ほどもお話ししたように、大会ビジョンにある「史上最もイノベーティブな大会」に対するNTTグループとしてのひとつの答えが5Gだと思っています。
伊藤: 2020年にはオリンピック・パラリンピックの観客を含めたくさんの方が訪日しますね。来訪者に対する"おもてなし"が重要になってきます。
古野: コミュニケーションツールのひとつとしてスマートフォンの翻訳アプリなどを提供していくことで貢献したいと思っています。それにより、ストレスのない道案内に役立てればいいですね。
二宮: 東京2020推進室の活動は大会終了までですか?
古野: 多少の残務はありますが、基本的には、とりあえず東京2020大会を無事に開催終了させるまでだと考えています。ただ、その後、2025年に大阪万国博覧会が予定されていますし、2030年に向けて札幌オリンピック・パラリンピックの招致活動中です。今後に控えているビッグイベントを万全の態勢で迎えられるように、東京2020大会で得た経験やノウハウを社内できちんと残しておきたいと思っています。
伊藤: そのDNAを次の世代に残していくということですね。
古野: ええ。過去の知見はNTTグループ内で脈々と受け継がれています。さすがに前回の1964年の東京大会の資料は残っていませんが、1998年の長野オリンピック・パラリンピック当時の資料は、誰が携わったかとか、写真入りで冊子として形に残っており、当時と環境は違う部分もありますが、何が起き、どう対応したかなど、様々なノウハウが引き継がれています。手前味噌で恐縮ですが、さすがインフラを預かる通信会社だなと思います。私はこの東京2020推進室で得た経験をしっかりと次の世代に繋げていきたいと考えています。
(おわり)
<古野徳之(ふるの・のりゆき)>
株式会社NTTドコモ 理事 東京2020推進室長。福井県出身。1990年東京大学経済学部卒。同年、日本電信電話株式会社に入社し、本社勤務や大蔵省(現財務省)主計局出向の他、地方勤務も経験し、主に、経営企画、人事総務秘書業務に従事。2017年、NTTドコモに新設された東京2020オリンピック・パラリンピックに向けた企画や準備を担当する現職に就任。NPO法人STANDの伊藤数子代表とは約30年に及ぶ交流がある。
(構成・杉浦泰介)