二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2019.12.26
後編 多摩地域でONE TEAMに
~調布から起こす未来へのアクション~(後編)
二宮清純: 小林さんがオリンピック・パラリンピック担当部長に就任されたきっかけは?
小林達哉: オリンピック・パラリンピックの担当部署ができたのが2016年です。今年で4年目になります。私はそれまで生活文化スポーツ部という文化やスポーツなどをまとめる部署の次長をやっていましたので、そこから担当を任されることになりました。
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長): 小林さん自身は希望されたのですか?
小林: いえ、まさに青天の霹靂でしたね。2015年は新国立競技場の建設計画が見直され、ラグビーの会場が調布市内の味の素スタジアムに移るなど、大きな動きがあった年です。それを受け、近隣の府中市や三鷹市より早く部署を立ち上げることになりました。
二宮: それまでパラスポーツとの関わりは?
小林: 私自身、生活文化スポーツ部にいる頃からパラスポーツに関わってはいました。私が携わるようになったばかりの頃は、健常者のスポーツはスポーツ担当、障がい者スポーツは主に福祉担当と別の組織が担っていました。パラスポーツをどう盛り上げていくかに関してはイベントを実施するだけで、継続的なものではありませんでした。オリンピック・パラリンピック担当が立ち上がった頃からは"それではダメだ"と、セクション同士が話し合いを深めていきました。2020年以降をどうしていくかと話し合える協議会がつくられるなど、これまで以上に連携を取れるようになりました。
二宮: パラスポーツのイベントを開催することで、市民の方々の反応も変わってきましたか?
小林: はい。パラスポーツをただ観ればいいということではないのですが、試合やイベントで観ることによって身近に感じられたり、新たに気付くこともあると思います。大会を観戦した小学生の目はきらきらしている印象があります。その子が家に帰り、お父さんお母さんにパラスポーツの話をすることで、親御さんも"じゃあ観に行ってみようか"というふうになると思うんです。そうやって少しずつ輪が広がっている実感があります。継続していくことの大事さを感じています。
伊藤: 昨年から車いすバスケットボールの天皇杯が調布市の武蔵の森総合スポーツプラザで行われるようになりました。
小林: この1、2年で日本車いすバケットボール連盟様とは、いろいろ手を組ませていただいています。天皇杯以外に国際大会(三菱電機ワールドチャレンジカップ)も武蔵の森総合スポーツプラザで開催されました。今年8月の三菱電機ワールドチャレンジカップでは、調布市内の1400人の小・中学生が試合を観戦する機会を提供できました。それは連盟との協力関係があるからこそなんです。今後も引き続き、協力関係を継続していきたいという調布市の思いを汲み取っていただき、連盟と相互協力協定を結びました。車いすバスケットボール連盟が自治体と相互協力協定を締結したのは初めてと伺っております。車いすバスケットボールを通じ、パラスポーツの普及・振興や共生社会の実現に向けた事業を展開していきたいと考えています。
【26市のコンテンツを生かす】
伊藤: 12月8日には、パラスポーツの体験会を開催されました。
小林: はい。武蔵の森総合スポーツプラザにて、非常にいい雰囲気の中で行うことができました。開場前から並んでいただいた方を含めて約200人もの方々が集まり、ブラインドサッカー、ボッチャに加え、義足体験もしていただきました。ここ数年パラスポーツも、調布市のスポーツ振興の中に組み込んでいます。昨年も同じように体験会をやりましたが、今年はオリンピック・パラリンピックで競技会場となる武蔵野スポーツプラザで開催したこともあり、とても盛り上がりましたね。
二宮: 車いす競技で体育館を使用すると床に傷が付くという理由で、断られることがあると聞きます。
小林: 東京パラリンピックで車いすバスケットボールの開催会場は調布市ということもあり、昨年調布市の職員が車いすバケットボールの体験会を企画しました。床を傷付けるとの心配もありましたが、実際は体験レベルでは問題ありませんでした。そのあたりも市内の学校体育館にも理解していただけたと思っています。
二宮: 近隣の府中、三鷹市などと連携会議を設けているのでしょうか?
小林: そうですね。オリンピック・パラリンピックに向けてもそうですし、ラグビーワールドカップでも連携・協働をしました。ラグビーワールドカップは府中が中心になり、3市で連携し、イベントを開催したことで、少しずつ気運を高めていけたと思っております。オリンピック・パラリンピックも同じです。調布市だけが盛り上がればいいという考えではありません。多摩地域全体でどうやってお客さんをお招きするか。調布の名前だけで人を呼び込むのではなく、多摩26市が持っているコンテンツを最大限生かしながら、おもてなしができればいいと思っています。
二宮: まちというより、地域全体の魅力をアピールしたいと。そのためにはラグビー日本代表のように「ONE TEAM」になることが必要ですね。
小林: おっしゃるとおりです。その意味では総力戦です。調布市には深大寺、三鷹市には三鷹の森ジブリ美術館、多摩市にはサンリオピューロランドと、それぞれに観光スポットがあります。それらを連携できる強みが多摩地域にはあると思うんです。多摩地域で定期的にミーティングを行うことができる会議の場があります。今後はよりチームワークを高めていき、ユニバーサルデザインの理念に基づいた安心・安全で住みやすい魅力的なまちづくりに繋げていきたいと考えています。
(おわり)
<小林達哉(こばやし・たつや>
調布市生活文化スポーツ部オリンピック・パラリンピック担当部長。1964年、群馬県出身。1987年3月、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。同年4月に旭硝子株式会社入社した。1992年4月に学校法人桐蔭学園で12年間教員として勤務。2005年4月に調布市役所入庁した。教育委員会指導室、行政経営部秘書課を経て、2013年4月から2年間、東京都市長会へ出向。企画政策室室長を務めた。2015年4月に調布市生活文化スポーツ部次長に就き、2016年4月から現職。2019年ラグビーワールドカップ日本大会、2020東京オリンピック・パラリンピック競技大会を契機とした「調布市アクション&レガシープラン」の取り組みに尽力している。
(構成・杉浦泰介)