二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2020.02.13
前編 "誰もがスポーツを楽しむ"まちへ
~多摩市が目指す"健幸"都市~(前編)
東京都多摩地域南部に位置する多摩市は東京2020オリンピック自転車競技ロードレースの競技会場にも指定されている。同市は東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の先を見据え、<レガシーをいかしたまちづくりを推進する>と、している。<誰もが身近にスポーツを楽しむまち>を目標に掲げ、パラスポーツを通じた共生社会実現に取り組んでいる。"ボッチャのまち"づくりが一例だ。多摩市のくらしと文化部オリンピック・パラリンピック推進室の齊藤義照室長に話を訊いた。
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長): 多摩市は2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向け、市内にキャンパスを構える6大学(大妻女子大、恵泉女学園大、多摩大、国士舘大、桜美林大、東京医療学院大)と連携協定を昨年1月に結びました。
齊藤義照: 市と6大学で多摩市オリンピック・パラリンピック大学連携協議会を設置しました。連携の方策や実施内容について協議するだけでなく、それぞれの取り組みの意見交換も行っています。6大学には東京2020大会の気運醸成やオリンピック・パラリンピックを地域で応援するためのプラットホームとして、ご協力いただいています。昨年は大学と学生、市が連携して東京2020オリンピック自転車競技ロードレースの気運醸成イベントを7月に多摩大学で、11月には桜美林大学で開催しました。
二宮清純: 東京2020オリンピックの自転車競技において、ロードレース種目のコースに多摩市が含まれています。当然、運営ボランティアの人員も必要になりますね。
齊藤: はい。ロードレースは都内3市(三鷹、府中、調布)にまたがる武蔵野の森公園をスタート地点に多摩市を通過し、ゴールの静岡・富士スピードウェイまでの1都3県(神奈川、山梨、静岡)がコースです。多摩市は都内最長の11.8キロ。昨年7月に開催された東京2020テストイベント「READY STEADY TOKYO-自転車競技(ロード)」では市民を中心に運営ボランティアである「コースサポーター」として278名の方々に活躍いただきました。その中には大学連携協議会の6大学からも100名ほどの学生の方々にご協力いただきました。
伊藤: 「コースサポーター」はどういう役割を担っているのですか?
齊藤: コース周辺のカラーコーンや鉄柵等コース資機材の設営や観戦者・歩行者の整理誘導、具合の悪くなった方へのお声掛けなど様々な役割があります。組織委員会が募集する「大会ボランティア」とは別で設けている自転車競技ロードレースを支えるボランティアです。
二宮: 東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた取り組みとしては、アイスランド選手団の事前キャンプ地に決まっているそうですね。
齊藤: 昨年8月にアイスランドのNOC(アイスランド国立オリンピック・スポーツ協会)、当市、練習施設をご提供いただく学校法人国士舘を含めた三者で、オリンピック選手団の事前キャンプ実施に関する覚書を結ばせていただきました。そのご縁で、パラリンピック選手団の受け入れについても要請があり、現在、基本合意に向けて調整を進めています。
伊藤: 仮にパラリンピック選手団の受け入れをすることとなれば、選手や関係者に対応した施設が必要になりますよね。
齊藤: そこはアイスランドのNPC(アイスランド障がい者スポーツ協会)とやり取りをさせていただいています。アイスランドNPCの責任者に練習施設と宿泊施設を視察していただき、「これなら大丈夫ですよ」とお返事をいただいてホッとしました。
【3種類のホストタウン】
二宮: これを機に多摩市とアイスランドの友好が深まればいいですね。
齊藤: そうですね。昨年12月には多摩市が全国の自治体で初めてアイスランドのホストタウンとして登録され、内閣官房から公表されました。同国は世界男女平等ランキングで11年連続世界第1位、環境パフォーマンス指数2018でも世界第11位に入っています。男女共同参画社会の推進や地球と人にやさしい持続可能なまちづくりなど、多摩市と多くの価値観を共有しています。これからはスポーツに限らず文化や経済、教育分野などいろいろな面でも交流を深めていこうと考えています。2020年の大会開催に向け、参加国・地域との人的・経済的・文化的な相互交流を図る地方公共団体を全国各地に広げるホストタウンの取り組みに加え、あとふたつあると聞いています。
二宮: そのふたつとは?
齊藤: 復興ありがとうホストタウンと共生社会ホストタウンと言われているものです。復興ありがとうホストタウンは、被災3県(岩手県、宮城県、福島県)の自治体に対し、これまで支援をしてくれた海外の国・地域に復興した姿を見せつつ、住民との交流を行うものとされています。もうひとつの共生社会ホストタウンはパラリンピアンの受け入れを契機に、各地における共生社会の実現に向けた取り組みを加速し、2020年以降につなげていくものとされています。
二宮: 共生社会ホストタウンに登録するためには、ある意味において進歩的な都市じゃないとできないという言い方もできますね。
齊藤: そうですね。多摩市も共生社会ホストタウン登録に向けた取り組みを検討しています。
二宮: こちらのタペストリーにも記載されていますが、多摩市が目指す"健幸都市"とは、いつから掲げているスローガンですか?
齊藤: 多摩市は2013年度にスマートウエルネスシティ首長研究会に加盟しました。この研究会は、高齢化・人口減少が進んでも誰もが健康で元気に幸せに暮らせる新しい都市モデル「Smart Wellness City(スマートウエルネスシティ)」構想の推進を行っています。多摩市も2015年度から健幸都市の実現に向けて取り組みを進めています。そしてオリンピック・パラリンピック開催後も、誰もが身近にスポーツを楽しめるまちづくりをしていきたいと考えています。
(後編につづく)
<齊藤義照(さいとう・よしてる)>
多摩市くらしと文化部オリンピック・パラリンピック推進室長。1991年、中央大学商学部経営学科卒業、同年入庁。契約、開発、建設、環境、産業、福祉、児童、男女平等、市民活動、教育の各部署を経て2018年から現職。市内にあるサンリオピューロランドのキャラクターを活用した「ハローキティにあえる街」や、多摩センターのイルミネーションに関わり、地域の活性化に尽力した。福祉施設の永山福祉亭、権利擁護センターなどの立ち上げにも携わった。
(構成・杉浦泰介)