二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2020.06.11
前編 雇用に繋がるスポーツ
~出番、居場所、役割を創るeスポーツ~(前編)
近年、人気急上昇中のeスポーツ。PC、モバイル、家庭用ゲーム機器での対戦をスポーツとして捉える際の名称だ。eスポーツを通じ、障がい者雇用の促進を目指す団体、ePARAが2019年9月に設立された。ePARAの代表を務めるのは、裁判所から社会福祉法人品川区社会福祉協議会の成年後見センター勤務に転じた加藤大貴氏だ。加藤氏にeスポーツと障がい者雇用の可能性、今後の展望を訊いた。
二宮清純: 元々は裁判所に勤めていたと伺いました。国家公務員から品川区福祉協議会へ転職された理由は?
加藤大貴: 昨年4月に障がい者と高齢者を法律上、支援する制度を広めたいと思い、現在の職場に転職しました。妻からは反対されましたが、自分がやりたいと思ったことは止めらない気質なんです(笑)。1月から事業計画書などを作り、家庭内でプレゼンテーションしました。「わかった。そのかわり最後までやりきってね」と、なんとか許しをもらいました。
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長): その後、eスポーツに関わるようになったきっかけを教えてください。
加藤: 自分がゲームを好きだったことが理由のひとつですが、福祉に携わるようになり、障がいのある人との接点が増え、いろいろ気付かされたことがありました。障がいのある人たちとゲームの話などで盛り上がった時に、自分が変に特別扱いをしていたことに気付きました。何でもかんでもこちら側から支援をしようとするのではなく、助けを求めてきた時にサポートすればいい、と。そういう気付きをもっとたくさんの人に伝えられるツールは何かと考え、eスポーツが思い浮かんだんです。
二宮: それで昨年11月にePARAの第1回大会を開催したと?
加藤: はい。まずはeスポーツを通じて障がいのある人とのコミュニケーションを取ることが目的でした。その次に"ただ楽しむだけではもったいない。何か社会課題を解決できないか"と考えるようになりました。障がいのある人の就労には多くの課題があります。例えば、企業が障がいのある人に任せる業務内容を、清掃やシュレッダー作業などに限っているケースがある。能力に見合った業務を与えられずフラストレーションを抱えている方もいました。そこでeスポーツを使い、障がいのある人たちが企業に対し、"自分はこういうことができます"とアピールする機会になればいいと考えました。
二宮: 第1回大会を開催した際の手応えは?
加藤: 大会に参加した約10人の障がいのある人のうち4人が就職することができたんです。"この方向性は間違っていなかった"と実感することができましたし、今後への大きなモチベーションにもなりました。
伊藤: どういった点が就職に繋がったのでしょうか?
加藤: ゲームが上手いことを理由に採用した企業もありますが、ゲームスキル云々の前に"インターネットが使えるし、事務作業もできる。これなら、ウチでも働けるんじゃないか"と企業側が気付いたことも採用に大きく結び付いたんだと思います。
【対等に戦える魅力】
伊藤: なるほど。得意分野をアピールできた人もいるしコミュケーション能力やリーダーシップを発揮する人もいました。企業側とすれば、大会を通じ、履歴書や面接だけでは伝わらないキャラクターを直接知ることができるいい機会です。
加藤: その通りです。当然、どういう成果を出したかも評価の基準になりますが、目標達成に向け、どう練習し、真摯に向き合ってきたのかも、その人のプロフィールとなりますからね。
二宮: 障がいの有無に関わらず、公平に戦えることもeスポーツの魅力です。
加藤: 同じルールの中で、対等に競い合えるのは、おそらくeスポーツ以外ないと思います。オリンピック、パラリンピックのように障がいの有無によって、出場する大会が異なるのが現状です。しかし、eスポーツは皆が同じ大会で競い合うことができる。我々はその特性を生かし、障がいの有無に関わらず、人や企業が交われる機会をつくることを目標としています。
伊藤: eスポーツは障がいに合わせた道具やソフトさえ用意すれば、誰もが同じ舞台で戦えますよね。
加藤: そうですね。障がいに応じてコントローラーを改良したり、ルールを工夫することもあります。昨年の第1回大会では、半身麻痺の女性から「大会に出たい」と言われました。その方は右手が動かせないから、2人協力プレイというかたちで参加していただきました。コントローラーやルールを工夫することで、また違った楽しみ方ができる。そういった広がりや可能性を感じた大会でもありました。
二宮: eスポーツを通じ、障がいのある人の新たな可能性が探れると?
加藤: それはあると思います。特に発達障がいのある人に親和性が高いと言われているのがコンピュータプログラムやゲーム内のバグを除去するデバック作業です。発達障がいのある人はひとつのことに長時間集中できる傾向があるので、これがデバック作業にうまくフィットするんです。障がいのある人の中には、開発を含めゲーム関連の仕事で能力を発揮される方がいるということも、eスポーツと障がい者雇用がリンクできる理由のひとつだと思います。我々もeスポーツにはまだまだ多くの可能性を秘めていると感じています。
(後編につづく)
<加藤大貴(かとう・だいき>
ePARA実行委員会代表。1981年7月12日、愛知県出身。中央大学法学部を卒業後、法政大学法科大学院を修了した。2011年11月、東京地方裁判所に入所。事務官、書記官を経て、2019年3月に退職。同年4月に品川区社会福祉協議会に入職。品川成年後見センターの職員として勤務する。9月にeスポーツを通じた障がい者雇用の促進を目的とするePARA実行委員会を設立した。11月に「ePARA2019」を開催。大会に参加した4人の就職が実現した。今年5月には「ePARA2020」をオンラインで開催。得意なゲームは「レジェンド・オブ・ルーンテラ」。
(構成・杉浦泰介)