二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2020.08.27
後編 「懐の深い競技」
~eスポーツが広げる雇用のカタチ~(後編)
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長): eスポーツに対しては、まだ「ゲームであってスポーツではない」というイメージを持たれる人も少なくありません。
茅原亮輔: ゲーム=子どもの遊び。そして悪であるというイメージを持たれている方もいます(笑)。ただeスポーツが持つ可能性は無限にある。今はアスリート的な要素が拡大していき、"カッコ良い"というイメージが広がりつつあると思います。そもそもeスポーツは懐が深いですから......。
二宮清純: 懐が深いとは?
茅原: フィジカル的要素を前提としないので、老若男女、国籍、障がいの有無を問わず平等に戦えるのが魅力です。我々としてもその魅力をしっかり訴求していくことが大事だと思っています。
伊藤: 「体を動かさないものはスポーツとは言わない」という意見もあります。
茅原: これはeスポーツチームを所有するJリーグの東京ヴェルディと話していた時に確認できた事例です。東京ヴェルディのeスポーツ選手は、リアルなサッカーも上手いという分析結果が出ました。それはeスポーツでは、俯瞰的視点を生かし、プレーするからです。サッカーにおけるゲームメイク能力には俯瞰的視点が必要不可欠と言われています。それをeスポーツで鍛えることができる。フィジカルスポーツを否定するのではなく、それぞれがウインウインになるために掛け算をしていく発想もありだと思います。
二宮: eスポーツは共生社会実現と親和性がありますね。
茅原: おっしゃる通りです。今後は障がいのある人の就職の多様性はどんどん広がっていくと思います。我々は障がいのある人の就業の実現に、ひとつでも多く貢献できればいいと考えています。
二宮: 障がいのある人の雇用としては、eスポーツ選手以外の選択肢も考えていますか?
茅原: もちろんです。我々としては選手だけではなく、eスポーツ関連の仕事にも繋げていきたいと思っています。たとえば動画配信の撮影、編集、大会やイベントの企画立案、運営などと、その仕事は多岐にわたります。eスポーツに関わる仕事で活躍していただくことが実現できれば、今後の可能性がどんどん広がっていくのかなと思います。また我々はITに特化した就労支援事業所も運営しています。WEBデザインのスキルなどを習得していただき、就業を後押ししています。
【まちおこしに貢献】
伊藤: eスポーツで賞金を稼ぐ選手は、ほんの一握りにすぎません。アスリートとして大成しなかったとしても、IT分野の技術者として働けるように社会との接点を構築できれば素晴らしいですね。
茅原: おっしゃる通りです。今回の新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、オンラインでの仕事は今後拡大していくと思われます。そこに対して強みを持つのはeスポーツを好きな層。彼ら、彼女らが活躍する可能性は十分にあるので、そこに注力していきたいと考えています。
二宮: そのためにはどういった活動を?
茅原: 完全在宅で就業しているeスポーツ選手に在宅勤務のノウハウを学ぼうと「eスポーツ寺小屋」というオンライン企画を実施しました。彼らには在宅勤務における健康法やコミュニケーションの仕方などについて伝授してもらいました。
伊藤: 彼らはコロナ以前から在宅勤務のプロというわけですね。面白い試みですね。反応はどうでしたか?
茅原: 有難いことに大変好評でした。eスポーツ寺子屋を機に、企業や自治体と協力し、「eスポーツ・ソーシャルファーム構想」というものを立ち上げようとしています。この構想は障がい者雇用そのものを創り出すこと、eスポーツに取り組む青少年への支援を目的としています。eスポーツ関連の業務受託をはじめ、eスポーツ寺子屋をはじめとした情報発信などを行うつもりです。
二宮: eスポーツを地域振興、地域再生に利用しようとしている自治体は多いですね。
茅原: そこは私も非常に可能性を感じています。我々が就労をお手伝いさせていだいた長崎在住の障がいのあるeスポーツ選手がいます。その方の師匠に当たる世界ナンバーワンの選手も長崎に住んでいます。そのコミュニティを生かし、長崎でまちおこしができないかと検討しています。他にもNTTグループがeスポーツの会社を立ち上げ、まちおこしを事業に組み込んでいる。そういった企業とも連携しながらやっていきたいと考えています。
二宮: 他にも取り組んでいきたいことは?
茅原: はい。eスポーツも含むパラアスリートのセカンドキャリアにも取り組みたいと考えています。現在は日本代表として活躍した選手ですら現役を引退すると働く場所がないというケースがあります。引退したからといって、その人たちの価値がなくなるわけではない。選手として得てきた経験やノウハウを元に、社会に還元できることがあるはずです。その価値を訴求していくことも我々の役割だと思っています。
(おわり)
<茅原亮輔(かやはら・りょうすけ)>
株式会社ゼネラルパートナーズat GPコンサルティング室コンサルタント。1985年7月30日、栃木県出身。慶應義塾大学を卒業。代議士秘書を務め、人材派遣会社勤務を経て、2017年に障がい者専門の人材紹介会社である株式会社ゼネラルパートナーズに入社した。翌年、新設された同社のat GPコンサルティング室に勤務し、障がいのある人の雇用支援に尽力した。2019年には日本初となるeスポーツ選手のパラアスリート雇用を実現させた。小・中学時代は野球、高校では柔道に汗を流した。料理が唯一の趣味。
(構成・杉浦泰介)