二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2020.09.10
前編 「多様化するイベント」
~だれもが、だれもと楽しめる社会へ~(前編)
株式会社セレスポは1977年の創業以来、数多くのスポーツイベントなどを手掛けてきた。一般社団法人日本パラ陸上競技連盟とオフィシャルパートナー契約を結ぶなどパラスポーツとの関わりも深い。人事総務部副部長を兼ねる越川延明コーポレートデザイン室長は、持続可能でユニバーサルなイベント制作に取り組んでいる。今後のスポーツイベントの在り方について訊いた。
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長): 社名のセレスポはセレモニーとスポーツの略から由来しているのですね。
越川延明: そうです。セレモニーは起工式などの建設式典、スポーツは企業の運動会。設立当初はこの2つを主軸に事業を展開していきました。最初は会場を設営する仕事でしたが、自治体などのフェスティバル系の仕事も増え、プロモーションも任されるようになりました。スポーツとの関わりで言えば、2008年にハンドボールの北京五輪アジア予選の再試合が東京で行われましたが、その運営を担当したことでスポーツイベントの運営会社として認知していただけるようになったんです。
二宮清純: 愛知で行われた男女のアジア予選は不可解な判定を巡り、再試合となりました。
越川: 我々にとって、この規模の国際大会は初めてでしたが、再試合開催が決定してから、約2週間という短い準備期間で行い、無事に試合を開催することできました。そのことがきっかけで「セレスポは裏切らない会社」「最後まで逃げない」という評価をいただいた。以降、陸上やトライアスロンと様々なスポーツ団体にご協力させていただくようになりました。
伊藤: 御社が運営しているポータルサイト「運動会.com」には、「玉入れさせない」「デカパン競争」など楽しそうなオリジナル種目が紹介されていますね。
越川: 企業運動会に対する問い合わせが増えたことで、2009年に同サイトを立ち上げました。ニーズや要望に合わせた運動会プランと料金体系などを掲載しています。
二宮: 今は運動会シーズンですが、今年は新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、社内運動会を希望される企業は減っているのでしょうか?
越川: そうですね。やはり対面での集会形式のイベントは厳しい状況にありますが、少しずつ状況は変わりつつあると感じています。先日、仙台で市内のイベント関係者と新型コロナの感染対策商品などを展示した「Event SENDAI」を開催しました。今後に向けたイベント開催のデモンストレーションとなったと思います。
【イベントの在り方の変化】
伊藤: 御社はパラスポーツのイベント、体験会も運営してきました。2015年に日本パラ陸上競技連盟とスポンサー契約を結び、日本選手権の運営を担当されていますね。
越川: 日本パラ陸上競技連盟と契約すると聞いた時は東京オリンピック・パラリンピック招致が決まった後だったので、"あざといかな"(笑)と思い、友人のパラアスリートに相談しました。すると、こんなアドバイスが返ってきました。「結果的にそう見えてしまうのはしょうがない。それにこれからどんどん増えていくと思うから気にしなくてもいいと思う。何より自分たちは東京パラリンピックが決まる前からセレスポがパラスポーツに関わってきたことを知っているから大丈夫だよ」。その言葉はとてもうれしかったですね。
伊藤: それだけ自然な流れだったわけですね。そもそもパラスポーツと関わるようになったきっかけは?
越川: スポーツ関連の仕事をしていくうちに自然とパラスポーツと関わってきました。また、元々我々は1990年代から障がいのある人を含めた多くの人が参加でき、楽しめるイベントづくりを目指していましたことからも繋がっていきました。
二宮: そこから現在のようにパラスポーツ関連のイベントを開催するようになったと?
越川: はい。最初は当時者のために取り組んでいたことでしたが、社内の評判も良く、携わった社員からは「次もイベントに関わりたい」という声もあったんです。"ひょっとしたら、多くの人を仲間にしたらもっと広がるんじゃないか"と、草の根運動的にいろいろなパラスポーツの体験会や講演会を手掛けるようになりました。
二宮: 御社が運営するイベントの来場者には、障がいのある人、外国人など多様な人が増えてきていますか?
越川: 確実に増えていますね。皆さんがイベント参加に積極的になっている印象はあります。昔に比べ、会場のハード、運営のサポートレベルも整い、参加しやすく楽しめる環境になりました。あとはイベントの在り方が変わってきた。今は音楽フェスのようにアーティストの演奏を楽しむメインステージはもちろんのこと、他にもフードエリアや演奏以外のパフォーマンスを楽しめる場所もあります。メインコンテンツ以外にも魅力があり、そこに惹かれて参加する人も増えたのだと思います。イベントの楽しみ方も多様化していると感じますね。我々もその流れに対応し、より多くの人が楽しめるイベントづくりをしていきたいと考えています。
(後編につづく)
<越川延明(こしかわ・のぶあき)>
株式会社セレスポ 人事総務部副部長 兼 コーポレートデザイン室長。1978年1月6日、千葉県出身。2001年千葉大学を卒業後、株式会社セレスポに入社。イベントの企画制作に従事。2010年、一般社団法人日本イベント産業振興協会に出向。「ISO20121:イベントの持続可能性に関するマネジメントシステム」の策定に携わる。帰任後、サステナブルイベント研究所設立。社内の推進体制を構築すると共に、イベント制作時のサポートを行う。現在、日本イベント産業振興協会 人材育成委員会委員も務める。サステナビリティを軸とした組織づくり、人材育成、PR、IR、CSRに取り組んでいる。より多くの人が気軽にサステナビリティに取り組めるように、セミナー講師やファシリテーターも務めている。
(構成・杉浦泰介)