二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2020.09.24
後編 「異業種とのコラボレーションに挑戦」
~だれもが、だれもと楽しめる社会へ~(後編)
二宮清純: 昨年6月に東京・日比谷公園で開催されたユニバーサルスポーツイベント「ノーバリアゲームズ」の運営は御社が担当していましたね。
越川延明: 元々はイタリア国内で行われていた同様のイベントをWOWOWから「日本でも開催したい」という意向を受け、我々が協力しました。
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長): 私も少しお手伝いさせていただきましたが、イベントでは赤、青、黄、緑と4チームに分かれ、車いすを使ったリレーなどの5競技で争いました。アスリートやパラアスリート、障がいのある子どもたちが一緒に楽しめるイベントでした。
越川: 「ノーバリアゲームズ」は「みんなちがっていい」をテーマにした年齢や性別、国籍、障がいの有無などを問わず参加できるスポーツイベントです。障がいのある参加者からは「障がいのある人が参加するイベントはたくさんあるけど、本気で勝負するものは少ない。自分たちが負けてすごく悔しかった」という感想をいただきました。
伊藤: 確かに参加していたアスリートの方たちは大人げないくらい本気でしたね(笑)。まさに「ノーバリアゲームズ」でした。
越川: そうですね(笑)。パラスポーツイベントは競技の説明やアスリートの凄さを伝えることに終始してしまいがちです。ルールや競技の魅力を知ってもらうことももちろん大事ですが、参加者が多様な人たちと真剣に取り組むことで、互いに見えてくることもあると思うんです。それは互いの違いを受け入れることだったり、"自分に何ができるのか"と考えるきっかけになったりもする。
二宮: このイベントは「見る」「する」「支える」と分けるのではなく、3つ一緒になっている点がいいですね。
越川: おっしゃるように、ひとつにとらわれないことが大事かもしれませんね。例えば、子どもが一般のトライアスロン大会に出場するのは難しくても、キッズボランティアや子ども記者といったかたちで関わることはできます。世界トライアスロンシリーズ横浜大会では、そのイベントにカメラメーカーや新聞社が協力し、子ども記者が大会の模様をそのメーカーのカメラで撮影する。新聞社では子ども記者が書いた記事や撮影した写真を掲載した特別な新聞を刷っています。関わり方の選択肢はたくさんあっていいと思うんです。
【「何も気にせず一緒に過ごせる」社会へ】
二宮: 関わったスポンサーに利益が出れば、参画を望む企業も増えていきますからね。そういったサイクルを生み出すことができれば、イベントは持続可能になる。
越川: その通りです。先ほどの例をあげると、子どもたちが取材してつくった新聞を地域の小学校などに配れば、子どもたちだけでなく周囲の人々が新聞に目を通す機会に繋がるんです。さらに新聞を読んだ大会に関わらなかった子どもの親御さんからは「次回はウチの子も参加させたい」という声をいただける。大会やイベントを通して、ポジティブな循環をつくっていくこともサスティナブルなイベントづくりには必要です。時々、「越川さんのサスティナブルはお金儲けだね」と言われることもありますが、現実問題として、お金がないとイベントを継続することはできませんからね。
二宮: スポーツは体育の延長で、ビジネスではなくボランティアでやるべきという考えなんでしょうね。
越川: パラスポーツにおいても、そういう声は聞こえてきます。しかし、障がいのある人たちに関するマーケットは潜在的に大きい。そのマーケットをより活性させることは、とても意味があることだと思うんです。
伊藤: 越川さんは、「共生社会は何も気にせず一緒に過ごせる」こととおっしゃっています。すごく素敵な表現ですね。
越川:工夫次第でみんなで楽しむことができると思うんです。まずは友人や同僚など身近な範囲で「何も気にせず一緒に過ごせる」ようになればいいんです。そういった小さな輪があちこちで生まれ、広がっていけば自然と共生社会は実現できるのだと考えています。
二宮: 今後、挑戦していきたいことは?
越川: 今はどうしたらパラスポーツに縁遠かった人たちを引き付けられるかを試行錯誤しながらやっているところです。以前、ビジュアルをテーマに他分野の方々とパラスポーツをコラボレーションさせたイベントを開催しました。ビジュアルを切り口にしたイベントでは、カメラマンをトークゲストに招き、パラスポーツの魅力をアートやメカニカルなビジュアルの視点から伺いました。違う分野の人やモノを組み合わせることによって、パラスポーツを楽しむ人たちの層が広がる気がします。今後も様々な業界と繋がっていきたいと思っています。
二宮: 具体的には?
越川: ファッション業界の方と組みたいです。ファッションは一番近くにある自己表現だと思います。障がいがあることでファッションに制約をつくってしまう人がいると聞きます。こういった思い込みを打ち破ることの意味は大きいと思います。この春に「ハイヒール・フラミンゴ」という義足の女性が自分らしく生きるためのコミュニティができました。こういった方ともコラボレーションをしていきたい。私はファッション業界との距離があるので、ファッション業界の知見や感覚に触れることで、何か面白いことが閃くような期待感もあります。今後もいろいろな人と関わり、混ざり合うことで芽生えるものや見えてくることを大切にしていきたいですね。
(おわり)
<越川延明(こしかわ・のぶあき)>
株式会社セレスポ 人事総務部副部長 兼 コーポレートデザイン室長。1978年1月6日、千葉県出身。2001年千葉大学を卒業後、株式会社セレスポに入社。イベントの企画制作に従事。2010年、一般社団法人日本イベント産業振興協会に出向。「ISO20121:イベントの持続可能性に関するマネジメントシステム」の策定に携わる。帰任後、サステナブルイベント研究所設立。社内の推進体制を構築すると共に、イベント制作時のサポートを行う。現在、日本イベント産業振興協会 人材育成委員会委員も務める。サステナビリティを軸とした組織づくり、人材育成、PR、IR、CSRに取り組んでいる。より多くの人が気軽にサステナビリティに取り組めるように、セミナー講師やファシリテーターも務めている。
(構成・杉浦泰介)