二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2020.11.12
前編 障害のある人に「スポーツの入り口」を
~繋げて広げるスポーツの輪~(前編)
2009年に公益社団法人として認定された東京都障害者スポーツ協会は、障害者スポーツの振興を通じて<障害の有無や種別の枠を超え、各人の能力に応じ自己選択をし、交流し合い、競い合う、スポーツ・文化活動に参加する機会を平等に保障する共生社会の実現>を目指している。白石弥生子会長に協会の取り組みについて訊いた。
二宮清純: 東京都障害者スポーツ協会は東京都が中心となり、創設されたのでしょうか?
白石弥生子: 最初は特別支援学校の元教師の方と知的障害のある子どもを持つ親御さんを中心に、1990年に東京都精神薄弱者スポーツ協会としてスタートしました。その後、東京都の働きかけがあり、すべての障害を対象とするスポーツ協会に生まれ変わるため、2003年に東京都障害者スポーツ協会と改組したんです。組織の規模も大きくなり、その時から東京都との関係が強くなりました。
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長): 「障害者スポーツ次世代ホープ発掘事業」など、パラアスリートを発掘する事業にも取り組まれていますね。
白石: この発掘事業は、パラリンピックなどの国際大会への出場を目指し、次世代を担う有望選手を1人でも多く発掘するためのプログラムです。一昨年のアジアパラ競技大会で優勝した選手も輩出しました。それに加え、「東京ゆかりパラリンピック出場候補者強化事業」というものもあります。
二宮: 発掘だけでなく強化にも携わっているということでしょうか?
白石: はい。この事業では「東京アスリート」に認定した選手の競技力向上が目的です。選手にトレーニングプログラムを提供したり、選手がメンタルトレーニングなどを学べる講習会を開催しています。また助成金を交付し、選手の活動費用の負担軽減を行うなど、様々な面でサポートを行っています。国際大会で活躍する選手が増えることで、各競技の裾野も広がっていくはずです。障害者スポーツの振興に貢献できる事業と考えています。
二宮: 全国的には障害者スポーツの拠点は少ないと言われていますが、東京都には2つの障害者スポーツセンターがあります。
白石: 我々が指定管理者として運営している北区所在の障害者総合スポーツセンターと国立市所在の多摩障害者スポーツセンターですね。いずれも障害のある人専用のスポーツセンターです。全国的に専用の施設は少なく、関東では東京都が一番古くからあります。センターにはトレーニング室や体育館などの各施設にスタッフが常駐しており、障害のある人が個人でも団体でも利用できますので、気軽にスポーツを楽しめる施設となっています。障害のある人がスポーツに関心を持った際に相談できる窓口を設け、初めて利用する方の不安を取り除けるようにしています。
【スポーツで人生を豊かに】
二宮: 今年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止となりましたが、全国障害者スポーツ大会の派遣選手選考も兼ねた「東京都障害者スポーツ大会」を毎年開催していました。
白石: 「東京都障害者スポーツ大会」は東京都身体障害者スポーツ大会と、東京都知的障害者スポーツ大会(東京ゆうあいピック)を統合するかたちで、2000年にスタートしました。「身体」「知的」「精神」の3部門で全15競技を実施する都内最大規模の障害者スポーツ大会です。毎年約6000人の選手が参加しています。
伊藤: 東京都障害者スポーツ大会は都民体育大会と合同で開会式を実施しているそうですね。
白石: はい。障害のある人とない人がお互いのスポーツへの理解を深め、交流を図ることのできる式典として2012年から合同で行っています。その他にも我々は、2つの障害者スポーツセンターで様々な大会を実施しています。「東京CUP卓球大会」は障害のある人もない人も参加できる大会です。一緒にプレーすることで、交流と親睦を図るだけでなく、障害に対する理解を深めていただくことにも繋がる大会になっています。障害の有無に関わらず、一緒にスポーツができる。我々の目的にある共生社会の実現にも繋がる大会だと思っています。
二宮: それは面白い試みですね。社会に障害者スポーツに対する理解を深めることも重要なミッションとなりますね。
白石: そうですね。スポーツは生活を変え、人生を豊かにする力があると考えています。現状、東京都の障害のある人で、1年に1回もスポーツすることがない人が約50%もいます。スポーツ庁は第2期スポーツ基本計画で障害のある人が1週間に1回以上スポーツをする割合の目標を約40%に掲げています。東京都でも東京都スポーツ推進総合計画の中で同じ数字を施策目標にして様々な取り組みを行うことで、ここ数年のデータでは少しずつ伸びてきている傾向にあります。昨年度は37%になり、目標に近づいてきました。
二宮: その目標は東京都の2つの障害者スポーツセンターだけでは達成できるものではありません。
白石: ご指摘の通りです。各地域でスポーツクラブや学校と連携し、スポーツができる環境をさらに整備することが必要だと思います。先ほど約50%の障害のある人がスポーツを1年に1回もしていないと言いましたが、そのためにはまずスポーツをすることに対するイメージを変え、ハードルを下げるのも大事なことです。例えば、散歩をする。私はこれもスポーツの一種だと思うんです。
二宮: スポーツの語源はラテン語の「deportare(デポルターレ)」です。気晴らしをする、休養する、楽しむ、遊ぶなどの意味があります。散歩もスポーツと言えるかもしれませんね。日本の場合は競技のみをスポーツと捉えている方もいます。
白石: 我々は障害のある人に様々な「スポーツの入り口」を提供していくことで、障害者スポーツの振興を果たしていきたい。障害のある人がいつでも、どこでも、いつまでもスポーツを楽しむことができるような環境づくりに力を尽くしていきたいです。
(後編につづく)
<白石弥生子(しらいし・やえこ)>
公益社団法人東京都障害者スポーツ協会会長。1951年、島根県出身。1974年東京教育大学を卒業後、同年4月都庁に入る。都庁では保健医療行政、障害者福祉・子ども家庭福祉行政などに従事し、2011年議会局長で退職。都庁退職後、東京都社会福祉事業団の理事長などを務めた。2018年6月から現職。
(構成・杉浦泰介)