二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2020.11.26
後編 企業との橋渡し役を担う
~繋げて広げるスポーツの輪~(後編)
二宮清純: 新型コロナウイルス感染拡大の影響により、東京パラリンピックは1年延期となりましたが、障害者スポーツへの関心は以前に比べて高まってきたように感じます。
白石弥生子: そうですね。その一方で、東京パラリンピックによる盛り上がりが一過性に終わってしまうことを心配する声もあります。その不安を取り除くためには、障害者スポーツに吹く追い風を利用し、各競技団体がより自立していくことが必要だと思います。我々、東京都障害者スポーツ協会は都内の競技団体が法人化するための支援を行っています。活動基盤や体制の強化に関する相談も受けつけています。
二宮: 日本財団パラリンピックサポートセンターではいくつかの競技団体で共同オフィスをシェアしていますが、事務局が会長のご自宅という競技団体も少なくありません。
白石: 都内の競技団体も同じような状況です。厳しい言い方をすれば、都内の各競技団体はまだ脆弱なんです。これまで個人の努力で、競技団体を運営し、支えてきたのはとても素晴らしいこと。しかし、その人がいなくなったら団体運営や競技活動支援に支障がでるのでは困ります。
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長): 運営面を強化していくためにも、法人格の取得も一つの手段です。
白石: はい。競技団体が社会活動を推進していくためにも組織がしっかりしていないといけません。現在24団体が東京都障害者スポーツ協会の登録団体になっています。そのうち法人格を持つのは、2団体のみ。いずれは他の団体も法人化してほしいと思っています。
伊藤: 競技団体と企業との橋渡し役を担う事業を行っていると伺いました。企業にとってこういった窓口があることで、問い合わせがしやすくなったと感じます。
白石: そう言っていただけるとうれしいです。"障害者スポーツを支援したいけど、何をしたらいいのかわからない"と思われている企業と、支援を必要としている競技団体をマッチングする「障害者スポーツコンシェルジュ事業」には我々も力を入れています。企業や団体からの相談に対し、必要な情報を提供したり、こちらから企画を提案することもあります。この事業がきっかけとなり、大会にボランティアとして参加してくださるケースもあります。我々の取り組みが各方面に広がり、障害者スポーツの振興に繋がっている手応えはあります。
【"迷惑をかけている"という意識を払拭】
二宮: 企業における"障害者スポーツを支援したい"という気運が高まっているわけですね。
白石: とても高まってきていると感じますね。競技団体からは「練習場や大会会場の確保が大変だ」と聞いています。その課題を解決するため、「障害者スポーツコンシェルジュ事業」で競技団体にスポーツ施設を所有している企業や大学などを紹介しています。その結果、例えば野村不動産ライフ&スポーツ株式会社が所有しているスポーツクラブの休館日を使い、東京都ボッチャ協会に施設を無償で貸し出すことに繋がりました。
二宮: 支援のかたちは施設提供もあると。
白石: そうですね。我々としても障害者スポーツの環境整備に力を入れているので、とてもありがたいことです。施設の貸し出しを通じ、競技団体との連携を深めていった例も伺っています。学校法人の立教学院は学内のプールを日本身体障がい者水泳連盟と日本知的障害者水泳連盟に貸し出しています。その縁で立教学院のプールはパラリンピック水泳競技のナショナルトレーニングセンター競技別強化拠点施設に指定されました。今後も我々は企業や大学と障害者スポーツ競技団体との橋渡し役を担っていきます。
二宮: 障害のある人がスポーツをするためには、環境整備の他に周りの人の理解が必要になります。
白石: おっしゃるように周りの人の理解も大切ですが、障害のある人自身が後ろ向きになってしまっているという話も聞きました。特別支援学校でスポーツに親しんでいた人が、卒業後にスポーツから離れてしまうケースがあるそうです。例えば、地域のスポーツクラブに参加した人が、何かのきっかけでクラブのスタッフや他のメンバーに"迷惑をかけている"と思い込んで辞めてしまうというんです。我々はこういった意識を払拭することも大事なミッションだと考えています。
二宮: 具体的にはどんな事業を?
白石: 障害の有無に関わらず参加できる体験スポーツイベントとして「チャレスポ!TOKYO」を開催しています。障害のある人がスポーツを始めるきっかけづくりとなる、また誰もが一緒に楽しめる参加体験型イベントです。東京都障害者総合スポーツセンターでは、障害の有無に関係なく一緒に競技をする「東京CUP卓球大会」を実施しています。障害のある人が"迷惑をかけている"などという意識を少しでもなくすことができればいいと思っています。
伊藤: 障害のある人とない人が一緒にスポーツをする機会を提供されているのですね。なかなかない素晴らしい機会ですね。今後に向けては、どのような活動をしていきたいとお考えですか?
白石: ボランティアや障がい者スポーツ指導員の活躍の場を増やしたいと思っています。我々は登録していただいたボランティアや障がい者スポーツ指導員に、活動情報を提供する「障害者スポーツ人材バンク」の運営をしていますが、今年度中に機能を大幅に充実させた新たなシステムを構築する予定です。これらの活動の認知度を上げていき、障害者スポーツに関わる人がさらに増えれば、障害者スポーツの振興にも繋がると考えています。
(おわり)
<白石弥生子(しらいし・やえこ)>
公益社団法人東京都障害者スポーツ協会会長。1951年、島根県出身。1974年東京教育大学を卒業後、同年4月都庁に入る。都庁では保健医療行政、障害者福祉・子ども家庭福祉行政などに従事し、2011年議会局長で退職。都庁退職後、東京都社会福祉事業団の理事長などを務めた。2018年6月から現職。
(構成・杉浦泰介)