二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2021.03.25
後編 共生社会実現への"共育"
~誰もが暮らしやすい社会づくりを~(後編)
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長): これまで日本ブラインドサッカー協会と連携し、事業を行っていますね。
高木友子: そうですね。ブラインドサッカー大会の介助ボランティアというかたちでご協力してきました。また日本ブラインドサッカー協会は「スポ育」という小中学生を対象にしたブラインドサッカーによる体験型授業を実施しています。その「スポ育」と、私たち日本ケアフィット共育機構の「おも活」が連携し、全国の小中学校を回っています。
二宮清純: では「おも活」とは?
高木: おもいやり・おもてなし活動の略です。「おも活」では、子どもたちがアイマスクを装着し、視覚障害を疑似体験します。お手伝いする側とされる側の両者の立場に立つことで障害に対する理解を深めることができます。また、障害の有無に関わらず、自分にできることや、どんなお手伝いの方法があるかを考えることによって、ボランティアマインドの醸成につなげています。
二宮: 日本ケアフィット共育機構では、おもてなしの心と介助技術を学ぶサービス介助士資格取得講座を行っていますね。
高木: はい。2000年からスタートしました。国家資格ではないのですが、全国1000社、約18万人の方に資格を取得していただきました。
伊藤: 今年で21年目。まさに"継続は力なり"ですね。
高木: ありがとうございます。資格を取った方からは「車いすユーザーがまちにいると、目に留まるようになった。いろいろなことに気付くようになった」というご意見をもらいました。
伊藤: パラリンピックが東京で開催することが決まった成果のひとつが、以前よりもパラスポーツに目が向けられようになったことだと思います。皆さんの活動にも変化はありましたか?
高木: サービス介助士資格取得の導入企業がパラスポーツに関心を持ち、「パラスポーツを応援したい」というケースが増えてきたように感じます。「大会を手伝いたいから、紹介してくれませんか」と具体的に声を掛けていただくこともありました。
伊藤: 昨年スタートした日本ケアフィット共育機構の活動戦略「チーム誰とも」の正式名称は、「誰もが誰かのために共に生きる委員会」です。読めば読むほど、いろいろ考えに考えて決まったんだろうなと感じました。
高木: 私たちには「共生社会をつくる」というのが以前からビジョンとしてあるのですが、人によっては"社会"と言われても少し規模が大き過ぎると感じる方もいます。まずは、それぞれができることから始めようと考えました。「チーム誰とも」のメンバーと議論を交わし「誰もが誰かのために共に生きる委員会」という名称になりました。
【バリアフルレストランの全国展開】
二宮: "互いの個性を尊重し合い、混ざり合う社会"が"共生社会"と呼ばれていますが、実際には障害のある人が"共生"するために我慢を強いられていることも少なくない。国籍や性別、障害の有無で、人を分断するようなことは終わりにしなければいけません。
高木: 私の印象ですが、人を分断せず皆が共生するという意識は若い世代の人たちの方が根付きやすいように感じますね。例えば「おも活」で、小学生に"仲間外れをつくらない"というキーワードを使って説明すると、すぐに理解してくれます。
二宮: 私は共生社会の前に、まずは"共存社会"だと考えています。生存は命に関わること。まずは人の命を大事にするために、"共存社会"があり、その次に共生社会がくるべきだと思うんです。
伊藤: "共生社会"という言葉は耳にしますが、"共存社会"とはあまり聞ききませんね。しかし二宮さんのおっしゃるように"共存"は大事なキーワード。日本ケアフィット共育機構は、"教育"ではなく"共育"という言葉を使っていますね。
高木: 文字通り、"共に育っていきましょう"ということです。私たちが一方的に教えるだけではなく、共に学び、考えていきましょうというスタイルです。
伊藤: なるほど。その名称に深い意味が込められているのですね。今後に向けてはどんな活動を?
高木: 車いすユーザーと"二足歩行者"の立場が入れ替わる"逆転の世界"を体験できる「バリアフルレストラン」の全国展開に向けた仕組みをつくっていきたいと考えています。ただ自分たちの伝えたい思いだけでなく、人を惹き付けるためにはエンターテインメント性も必要だと感じています。
二宮: おいしいメニューを提供して"胃袋を掴む"ことも大事かもしれませんね(笑)。料理がおいしければ、参加者も増えるでしょう。それが全国展開へのカギになるかもしれませんね。
高木: そうですね。全国展開する際には、各自治体の方に各地域のおいしいレストランを紹介していただいて、協力を仰ぎたい。その土地の特産物などを紹介できれば、まちおこしにもつながりますしね。今はできるだけ多くのファンをつくり、仲間を増やしていきたいと思っています。「バリアフルレストラン」を軌道に乗せ、体験型のイベントをもっと増やしていきたいと考えています。
(おわり)
<高木友子(たかぎ・ともこ)>
公益財団法人日本ケアフィット共育機構理事兼事務局長。神奈川県出身。日本大学卒業後、株式会社中村屋に入社。2003年に前身のNPO法人日本ケアフィットサービス協会に入職、2014年4月にNPOから公益財団に事業を継承し、現職に至る。サービス介助士導入企業1000社への普及活動を通じて企業や自治体のバリアフリー・ユニバーサル化の推進を促している。自身が子育て中でもあり、多様な人が活躍できる社内の組織づくりも手掛ける。趣味は食事、スポーツ観戦。
(構成・杉浦泰介)