二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2021.06.24
後編 ボッチャを日常生活の風景に
~パラスポーツに光を~(後編)
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長): 「サイバーボッチャ」の開発など、パラスポーツをエンターテインメント化する取り組みは珍しいケースだと思います。2017年に「サイバーボッチャ」の完成を発表してからの反響は?
澤邊芳明: 4年前、ロンドンからBBC放送が取材に来た時には、「君たち面白いな」と褒められました。"パラスポーツをエンタメ化するとはどういうことだ!?"と。ロンドンは2012年のパラリンピックを成功させた自負がある。そのロンドンでも「サイバーボッチャ」のようにパラスポーツをエンタメ化するようなコンテンツはつくっていなかったので、彼らは弊社の取り組みを認めてくれたのでしょう。
二宮: ボッチャには、おはじき、メンコ、コマ回しといった日本に昔からある遊びに似ている部分があります。日本人にとっては馴染みやすいのではないでしょうか?
澤邊: 元々、日本人はああいう遊びが好きだと思うんです。ところが「パラスポーツ」と言われた途端に自分とは関係ないものに思えてしまう。弊社としても、その壁を突破する必要があります。
二宮: 遊びと捉えれば、競技に取り組む際のハードルは低くなりますよね。それに遊びであれば、自分たちでルールを決められる。スポーツを習い事として始めると、自らルールをつくろうとしなくなる。それが日本人のクリエイティビティーを奪ったんじゃないかなと僕は秘かに思っています。
澤邊: そうですね。日本の子供たちがプレイしているデジタルゲームなども与えられたルールでやっているからルールをつくる機会に恵まれないことも問題かもしれませんね。
二宮: 能の世界に「守破離」という言葉があります。伝統文化の基本は師から教わった型を忠実に「守」ることから始まりますが、それだけでは発展しません。次の段階で型を「破」り、最終的には型から「離」れて自由になるということです。例えばバスケットボールのスリーポイントも後からつくられたルール。最初は「邪道」と言われていましたが、今ではなくてはならないものです。「守」がスタンダードなら「破」はブレイクスルー、そして「離」はクリエイティブです。
澤邊: はじめは既存のスポーツを模倣し、守っていく。そこから少しずつ拡張することで、「破」と「離」になっていくのかもしれません。弊社では、いわゆる通信対戦のパソコンゲームではない体を動かしてプレイするeスポーツは「フィジカルe-sports」と呼んでいます。eスポーツとフィジカルスポーツの融合で、老若男女誰もが楽しめるものができればいいと思っています。
伊藤: eスポーツとリアルスポーツの競技団体がコラボすることも増えてきましたね。
澤邊: 世の中の流れはどんどん変わっていくと感じています。デジタルテクノロジーの世界がフィットネス、ヘルスケアと融合していく。最新機器を駆使し、体ひとつだけでは味わえない体感型のトレーニングができるかもしれない。またAIと対戦できるパラスポーツの体験装置が開発されるかもしれません。この10年ぐらいで、ものすごく進化すると思います。
【飲みながら楽しめるスポーツ!?】
二宮: ヘルスケアという面では、日本が超高齢社会を迎えている中、お年寄りのスポーツにも目を向ける必要があると思うんです。
澤邊: 私もそれは重要な視点だと思っています。仕事をバリバリしていた方が定年退職後、「趣味がない」と困るケースがあると聞きます。私は21世紀を「退屈の世紀」と呼んでいます。世の中は自動化が進み、AIによって効率化されていく。暇を持て余す時間が以前よりも生まれ、同じような悩みを抱える人が増えていくと思うんです。
二宮: 会社を定年退職してから、"何かスポーツを始めたい"と思う方もいるでしょう。それがパラスポーツであってもいいわけですからね。大会などに参加すれば、"負けたくない"と闘争心に火が付くかもしれません。"第二の青春"を謳歌することに繋がるかもしれないですね。
澤邊: おっしゃる通りです。パラスポーツを障がいのある人のためだけではなく、中高年以上の人も楽しめるスポーツとして普及させていくことが大事だと思います。
伊藤: パラスポーツの体験会では子供たちが「サイバーボッチャ」を楽しんでいましたが、 "バーに置いて、お酒を飲みながら大人が楽しむのもいいんじゃないか"とも感じました。
澤邊: 弊社の狙いも同じです。いつかバーやカフェに設置し、お酒を嗜みながら楽しめるようにしたい。皆がボッチャを楽しむことを、日常風景の中に落とし込めたら、最高だなと考えています。
二宮: ダーツやビリヤードもお酒を飲みながら楽しみますよね。ところが日本人は妙に真面目だから、「今日は真面目にやるから飲まないぞ」と言ったりする(笑)。
澤邊: 老人ホームや体育館だけでなくバーやカフェ、どこにでもボッチャがある風景が理想ですね。
二宮: 婚活であれば、"お見合いボッチャ"とか。
澤邊: それはいいアイディアですね。まだ正式に発表はされていないのですが、日本ボッチャ協会の代表理事になりました。18歳で出合ったボッチャにここまで関わっていくことになるとは思ってもみませんでした。不思議な縁ですね。これまで以上に競技普及に力を尽くしていきたいと思います。東京パラリンピックがボッチャなどのパラスポーツにとって大きな後押しになることは間違いありませんが、その勢いを今年だけのもので終わらせてはいけないと考えています。
(おわり)
<澤邊芳明(さわべ・よしあき)>
株式会社ワントゥーテン代表取締役社長。1973年10月1日、東京都出身。京都工芸繊維大学入学直前、交通事故に遭い、手足が一切動かない状態になる。大学に復学後の1997年、ワントゥーテンの前身にあたるワントゥーテン・デザインを創業。これまで、広告からXR、人工知能開発、大型のプロジェクションマッピング等、様々なプロジェクトを手掛けてきた。2015年には日本財団パラリンピックサポートセンター開設にあたり、クリエイティブディレクターを務めた。2016年のリオデジャネイロパラリンピック閉会式のフラッグハンドオーバーセレモニーではコンセプト「POSITIVE SWITCH」を発案。2017年にパラスポーツとテクノロジーを組み合わせた「サイバースポーツプロジェクト」を発表。パラスポーツのエンターテインメント化に尽力している。東京オリンピック・パランピック競技大会組織委員会アドバイザー、日本財団パラリンピックサポートセンターの顧問などを務める。
株式会社ワントゥーテンHP
(構成・杉浦泰介)