二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2022.06.09
前編 非認知能力を"見える化"
~スポーツで社会課題解決へ~(前編)
リーフラス株式会社は『スポーツを変え、デザインする。』を企業理念に掲げ、全国36都道府県でサッカー、野球、バスケットボールなどのスポーツスクール事業を展開している。また小中学校の部活動指導を18の自治体から受託している。中でも2020年にスタートした名古屋市立小学校全校の支援事業は、日本初の自治体全体での部活動民間委託事例。日本のスポーツ界、教育の現場における様々な社会課題解決に取り組む同社の代表取締役を務める伊藤清隆氏に、その思いを訊いた。
二宮清純: スクール事業を始めたきっかけは?
伊藤清隆: 自分の幼少期を振り返ると、草野球で人間関係を学んだという原体験があります。スポーツは非認知能力を育むことができるツール。非認知能力とはIQや学力といった認知能力とは異なり、社会生活に役立つ主体性、協調性、礼儀、自己管理能力、課題解決能力などのことです。子供たちにこれらの能力を身に付させることができれば、社会で活躍する人材を育てることにつながる。スポーツを通じ、それを実現させるため、スポーツスクール事業を始めました。
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長): 起業された当初は、勉強を教えてもらうのにお金を払うのは当たり前でも、スポーツでは違うと考える方が多い時代でした。
二宮: 1961年制定のスポーツ振興法には<スポーツの振興に関する施策は、営利のためのスポーツを振興するためのものではない>と書かれている。2011年に施行されたスポーツ基本法では「営利」という言葉は削除されていますが、営利=スポーツの敵という感情はまだ一部に根強く残っています。
伊藤清: そうですね。スポーツ教育で営利を求めると、たちまち悪いことだと捉えられる傾向にあります。その誤った認識を変えることが、我々のミッションだと思っています。
二宮: 少子化が進む中、クラブチームや少年団と選手の取り合いになることはないのでしょうか?
伊藤清: うちのスクールはクラブチームや少年団に入らない子、スポーツが得意じゃない子でも入れます。その意味ではクラブチームや少年団と競合することはないんです。我々は勝つことよりも非認知能力の養成に重きを置いているので、全員が試合に出られるようなルールを設けています。子供たちに話し合いをさせてリーダーシップや協調性を養っていく。他のチームが勝つことを目指すとすれば、我々は教育的なところに注力している。そこが大きな違いです。
【誰もが楽しめる環境を】
伊藤数: 御社のサッカースクールを取材させていただきましたが、皆が楽しそうでした。参加している子供のひとりに「なぜ参加したの?」と聞くと、「『できなくてもいいよ。一緒にやろう』と言われたから入った」と答えてくれました。全員が試合に出場する、チームのキャプテンを固定しない、などのルールを設けていると伺いました。
伊藤清: キャプテンを任されれば、自ずとリーダーシップ力が養われます。チームに新しく入った小さい子の面倒を見るなど、人を思いやる気持ちや協調性が養成されていく。スポーツを通して非認知能力が上がることは間違いないと考えています。
二宮: リーフラスでは非認知能力を測定するシステムを構築したと聞きました。
伊藤清: はい。非認知能力を数値化できるシステム「みらぼ」です。「挨拶・礼儀」「課題解決力」「リーダーシップ」「自己管理力」「協調性」の5項目を点数化し、一人ひとりの傾向を見る。それを基に親御さんに対し、「リーダーシップ能力が低いので、キャプテン体験をしてみましょう」と提案する。そして半年後に数値を測ると、リーダーシップ能力が上がっている。というように目に見えるかたちにしました。
伊藤数: 人間性を高める場ということですね。
伊藤清: おっしゃる通りです。もちろん中には競技の技術が向上する子供も出てくる。各県のスクールには、より高いレベルの大会に出場するチームもあります。地域によっては少年団やクラブチームに勝って優勝することもあります。非認知能力が育成されていくと、上手になる子は上手になる。自分の頭で考えてプレーできるようになるので、自然と強いチームになるんです。
二宮: スパルタ方式で指導すれば必ず強くなるということではないんですよね。
伊藤清: 教育は国の礎になると思うんです。我々は創業時からスポーツ指導にありがちな体罰や暴言を否定し、「根性主義」を排除しています。非認知能力の向上を図るため、「認めて、褒めて、励まし、勇気づける」指導です。
二宮: 常々、「スポーツを社会のインフラにしたい」とおっしゃっていましたね。
伊藤清: その通りです。障がいの有無や年齢、性別に関わらず、すべての人たちにスポーツができる環境を整備する。いつでも誰でも、気軽に楽しくスポーツができるようにしたいと思っています。
(後編につづく)
<伊藤清隆(いとう・きよたか)>
リーフラス株式会社代表取締役。1963年、愛知県出身。2001年、スポーツ&ソーシャルビジネスにより、社会課題の永続的解決を目指すリーフラス株式会社を設立し、現職に就く。スポーツ部門として、スクール事業・イベント事業・コマース事業・アライアンス事業、ソーシャル(社会)部門として、部活動支援事業・地域共動事業・ヘルスケア事業・放課後等デイサービス「LEIF」事業を運営。創業時より、スポーツの指導にありがちな体罰や暴言を否定し、「スポーツ根性主義」を排除。非認知能力の向上をはかる「認めて、褒めて、励まし、勇気づける」指導と部活動改革の重要性を提唱する。子ども向けスポーツスクールと部活動支援の仕組みを構築した。社会事業である部活動支援事業と体育授業支援事業は、国内で多数の実績を誇る。教職員の労務環境及び、児童・生徒のスポーツ環境の改善に貢献。プロ野球、Jリーグ、Bリーグ、Tリーグなどの各種プロスポーツ団体と、スクール部門で業務提携している。
リーフラス株式会社HP
(構成・杉浦泰介)