二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2022.06.24
後編 未来の"ブカツ"とは?
~スポーツで社会課題解決へ~(後編)
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長): 御社は小中学校の部活動指導を18の自治体から受託しています。実際にどのようなかたちで関わっているのでしょうか?
伊藤清隆: 形態は自治体によって様々です。我々が雇用している指導員を学校に派遣するケースもあれば、部活動のマネジメントをサポートすることもあります。2020年からスタートした名古屋市立小学校全校の支援事業は、いわゆる部活動全般のサポートです。市内で指導員を採用し、研修をしてリーフラス型の指導法を学んでいただきます。その後も指導員に任せきりにするのではなく、管理・監督するところまでを請け負っています。
二宮清純: 部活動は学校教育活動であると同時に教育課程外活動でもあり、社会教育活動でもある。しかし、学校教育法や社会教育法に「部活動」に関する記述はありません。教員が部活動により過重労働と言われているわけですから、部活動は社会教育活動にすると明確にしてもいいのでは?
伊藤清: 全く同感です。そうしないと学校の先生が持たない。50年前にできた給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)によって、公立学校の教員には残業代が支払われない現状は問題です。
二宮: "ブラック部活"と言われ、一部の教員からは「なんとかしてくれ」との声も上がっている。教育の現場にも働き方改革が求められています。
伊藤清: 先ほどお話した名古屋市は教員の過重労働を1日も早く改善したいという思いが強い。市はそのための予算を確保しています。
伊藤数: 徐々に学校、子供、親、先生、自治体にとって良しという事例が伝わっていけば、世の中も変わっていくかもしれませんね。
二宮: 今後も、さらに全国展開していきたいと?
伊藤清: そうですね。簡単ではありませんが、いつかは47都道府県の部活動支援をしたいです。なぜなら子供たちが喜んでくれるから。弊社の場合は褒めながら、楽しく指導することを義務付けています。それが全国に広がっていけばいいと思っています。
【"脱体育会系"】
二宮: スポーツスクールでの指導員の採用基準は、そのスポーツの経験があることが条件ですか?
伊藤清: 基本的に競技経験者であることを条件にしていますが、その実績は関係ありません。まずは人間性が採用基準ですね。人間性は部活動を任せる指導員にも求めていることです。
二宮: 指導者の中には、"ザ・体育会系"的なスパルタ指導で育ち、自身もそう教えるのが当たり前だと考える人もいます。
伊藤清: そういう意識の方は入社できません(笑)。ありがたいことに弊社は就職サイトの人気企業ランキングにも入れていただいている。今年度は新卒の社員は113人採用しました。やはり我々の理念、考え方と一致しないと、入社は難しい。
伊藤数: スポーツに関わる仕事に就きたくても、それが叶わない人が多い。その意味で御社はスポーツ指導者の希望になっています。また1年間、リーフラス型の指導法を学べるアカデミーもあるんですよね。
伊藤清: 「リーフラススポーツマネジメントアカデミー」は弊社に入社したい人だけでなく、スポーツマネジメントを学びたい人にとっての塾のようなものにもなっています。
伊藤数: 入社試験に落ちた後、そのアカデミーに入って教育を受けた人の話も伺いました。どういう指導を子供たちにするかを徹底的に身につけ、もう一度、御社の採用試験を受けるというケースも多いのでしょうか?
伊藤清: たくさんいます。その人たちはだいたい受かりますね。アカデミーは1年間、「子供たちのスポーツ環境をより良くしたい」という志を持つ方の学び場ですから。自然と我々の理念や考え方と一致するようになります。
伊藤数: スポーツスクール事業における指導者雇用は、元プロ選手のセカンドキャリア支援にもつながっていると聞きました。
伊藤清: 元プロ選手の指導者は紹介や推薦を受けた方とお会いしてから採用を決めています。ただ、先ほどお話したように、実績ではなく人間性が最も重要な採用基準です。
伊藤数: 御社ではパラアスリート、パラリンピアンも正社員として雇用されていますね。
伊藤清: 現役選手はあらゆる側面からサポートしています。基本的には練習や指導の時間に打ち込められるようにしている。加えてオフシ-ズンや現役引退後は学校に行って特別授業をしてもらっています。例えば視覚障がいの競技であるゴールボールの選手の話を聞くことで、目の見えない人の気持ちを理解したり、一緒に競技を体験したりすることで見えてくることもある。パラアスリートのセカンドキャリアの支援を行いつつ、パラスポーツの普及、共生社会実現につながる活動をしています。子供たちのスポーツ環境を整備することはもちろんですが、アスリートのセカンドキャリア支援や指導者養成にも力を入れていきたい。部活動問題を含め、あらゆる社会問題を解決するソーシャルビジネスを実践していきたいと思います。
(おわり)
<伊藤清隆(いとう・きよたか)>
リーフラス株式会社代表取締役。1963年、愛知県出身。2001年、スポーツ&ソーシャルビジネスにより、社会課題の永続的解決を目指すリーフラス株式会社を設立し、現職に就く。スポーツ部門として、スクール事業・イベント事業・コマース事業・アライアンス事業、ソーシャル(社会)部門として、部活動支援事業・地域共動事業・ヘルスケア事業・放課後等デイサービス「LEIF」事業を運営。創業時より、スポーツの指導にありがちな体罰や暴言を否定し、「スポーツ根性主義」を排除。非認知能力の向上をはかる「認めて、褒めて、励まし、勇気づける」指導と部活動改革の重要性を提唱する。子ども向けスポーツスクールと部活動支援の仕組みを構築した。社会事業である部活動支援事業と体育授業支援事業は、国内で多数の実績を誇る。教職員の労務環境及び、児童・生徒のスポーツ環境の改善に貢献。プロ野球、Jリーグ、Bリーグ、Tリーグなどの各種プロスポーツ団体と、スクール部門で業務提携している。
リーフラス株式会社HP
(構成・杉浦泰介)