二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2023.02.24
後編 パラ水泳に貢献したい
~オリ・パラの垣根を超えるスイマーに~(後編)
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長): 中央大学在学中は水泳部に所属して、障がいの有無に関わらず他の部員と一緒に練習をしていました。それは今も変わらないのですね。
長野凌生: はい。卒業後も大学にお世話になっています。私自身、障がいが軽いということもあり、入部当初から一緒に練習をしやすかったと思います。実力差が大きく全然練習についていけなかったというところはありましたが、自分がどういう泳ぎをしていて、なぜみんなよりも遅いのかを身を持って知ることができました。
伊藤: ボクシングなどのトレーニングも取り入れたそうですね。
長野: 私が所属していた水泳部の短距離チームは、距離を泳ぐというよりは、自分の力をうまく発揮するための練習を重視していました。ボクシング以外でも、陸上で自転車を漕いだり、走ったり......。大学に入るまでは、水中でのトレーニング中心で、"これぐらいやれば速くなるのかな"という抽象的なイメージでしか練習していなかったんです。大学での様々なトレーニングを通し、"こう体を動かせばこう泳げる"と明確になったと思っています。今も他の部員やOBたちにいろいろな刺激をもらいながら、練習を重ねています。
二宮清純: 競技環境という点で、オーストラリアはパラリンピックを目指す選手とオリンピックを目指す選手が合同で練習していると聞いたことがあります。
長野: そうですね。大会も同時期、同会場で開催されます。日本はまだオーストラリアのように、オリンピック選手、パラリンピック選手が、障がいの有無に関係なくひとつのチームにはなっていません。大会も別々に開催されます。そもそもパラスイマーが一般の大会に出ること自体、珍しいことです。すべてオーストラリアやイギリスを真似ればいいというわけではありませんが、参考にすべき点は多々あると感じます。
伊藤: 昨年、日本社会人選手権水泳競技大会に出場されましたが、パラ水泳ではなく一般の競泳大会に出場する際、例えば特別な申請をしなければいけないのでしょうか。
長野: それに関しては期間内に大会参加標準記録を切っていれば問題ありません。ただ、その記録は日本水泳連盟公認の大会で出したものでなければいけません。実は一昨年も日本社会人選手権に出ようと思っていました。パラ水泳の大会で出した参加標準記録を突破しているタイムを提出しようと思い、主催者に確認したところ、認められませんでした。
【「応援が力に」】
二宮: 日本パラ水泳連盟(JPSF)も日本水泳連盟の関連団体なわけですから、そこは認めて欲しいですよね。それに長野選手がいろいろな大会に出ることによって、障がいのある人が「パラ水泳大会だけでなく一般の大会に出られるんだ。頑張ってみよう」という選択肢が増えるきっかけにもなりますね。
長野: 実際に自分のように一般の大会を目指すケースは珍しいと思います。そういったことにチャレンジしている立場を理解しつつ、活動していきたいですね。
伊藤: 以前、私は野村不動産パートナーズに所属する車いす陸上・西勇輝選手の取材で、応援ツアーに同行させていただいたことがあります。皆さんが社名ロゴの入ったTシャツを着て一体となって応援していました。選手としても、あの応援は大きな力ですね?
長野: 会社を挙げて応援に来て下さるというのは、すごくありがたいこと。西さんからも、その様子を聞いて楽しみにしていました。でも入社後、有観客でのレースがないので、皆さんの応援を背に泳いだ経験はまだないんです。早く有観客の大会で泳ぎたいですね。今後の大会が大変楽しみです。
伊藤: 現役引退後についてはどうお考えですか?
長野: やはり自分にできることって限られていると思うんです。私が貢献できることは何かと考えた時、今までやってきたこと、つまり水泳の経験を生かしたい。自分が競技生活で得たものを、上手く還元できればいいなと思っています。それが会社の利益に繋がるところまでにいくには時間がかかるかもしれません。それでも会社への感謝の気持ちを、何かかたちにしたいという考えは常に持っています。
二宮: 具体的には?
長野: "パラ水泳に貢献したい"という思いがあり、"いつかは指導者"とぼんやりと将来像を描いていました。昨年、パラリンピックに出場できないとわかったとき、今後を考えて何かできることはないかなと模索しました。それでぼんやりと描いていた"指導者になりたい"という将来の目標を実現するため、JPSF公認初級障がい者水泳指導員の資格を取得しました。いずれは私の経験を後進に伝えていくことも大事なミッションだと考えています。グループ会社では、子どもたちに向けて地域の小学校と連携し、水難事故防止を目的とした「着衣泳教室」や、泳ぎが苦手な子どもを対象にした「水泳教室」を開催しています。そういった場所などに私も参加して、貢献したいですね。それが私の経験を生かした会社への恩返しだと思っています。
(おわり)
<長野凌生(ながの・りょう)>
1997年9月17日、東京都出身。S21クラス。先天性の弱視。バスケットボール元日本代表の父・洋の影響でバスケットボールを始める。筑波大付属盲学校、中央大学では水泳部に所属。パラ水泳のS13クラスで50メートル、100メートル自由形日本記録保持者。東京パラリンピック日本代表に内定したものの、クラス分け判定により本大会出場はかなわなかった。2022年には日本社会人選手権水泳競技大会に出場。現在は国内最高峰大会である日本選手権水泳競技大会の出場を目指している。趣味はスポーツ観戦、アニメ観賞など。幼少期から東京ヤクルトファンである。身長192センチ。野村不動産パートナーズ株式会社所属。
野村不動産パートナーズ株式会社HP
(構成・杉浦泰介)