二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2023.11.16
前編 人と人とを繋ぐ場に
~共生社会実現への扉を開く~(前編)
Knockü(のっきゅー)は、<パラスポーツの可能性を引き出し、「小さな共生社会」を日本中に広げていく>ことを目的に、2020年4月から活動をスタートした一般社団法人だ。同法人は「小さな共生社会」を<障害のある人とない人が共に活動を行う中で、自然と支え合いが生まれるコミュニティのこと>と位置付ける。そのコンセプトに基づき、障害の有無に関わらず参加できるパラスポーツのイベント・コミュニティを運営するKnocküの岡田美優代表理事に話を訊いた。
二宮清純: 任意団体からスタートしたKnockü(のっきゅー)は活動開始から3年が経ちました。団体名の由来は?
岡田美優: 自分自身の可能性や、自分と異なる他者に対して、閉ざしている心の壁をノック(Knock)し、互いの心の扉を開いていく、という意味を込めました。私がドイツに留学した経験があるので、uにウムラウトを付けて個性を出してみました。
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長): キュートな名前ですね。2022年2月に任意団体から一般社団法人に移行しましたが、その理由は?
岡田: 障害の有無に関わらず、パラスポーツに参加できる環境を実現するために、Knocküを立ち上げました。最初はパラスポーツの魅力を発信しようと、WEBメディアやSNSを立ち上げ、オンラインコミュニティの運営を行ってきました。おかげさまで、学校や自治体からの講演やイベントを委託されることが増えてきた。より信用のある団体にするため、法人格を取得しました。
二宮: Knocküの主な事業は?
岡田: 誰もが参加できるスポーツクラブ「Knockü SC」事業と、誰でも参加できるパラスポーツのイベント企画運営事業、パラスポーツをテーマとした研修「Paraive」事業が主な事業です。その他にも、SNSメディアの運営やパラスポーツ事業の評価に関する研究も行なっています。
二宮: 岡田さんが、かつてマネジャーとして関わった経験のある車いすバスケットボールではなく、車いすハンドボールを始めたのではなぜでしょう?
岡田: 私が中学校から大学までハンドボールをやっていたこともあり、車いすハンドボールを中心とした活動にしました。ハンドボールはバスケットボールと比べてもボールが小さいし、小さい子どもでも簡単にシュートを打つことができる。初心者の入り口としては、スタートしやすいというメリットがあります。おかげさまで、中学生から大人まで、いろいろ年代な人が楽しめると、いい反響をいただいています。
【誰も参加できるクラブ】
伊藤: 車いすハンドボールとハンドボールのルールの違いは?
岡田: ルールは基本的にはハンドボールと同じです。選手は全員車いすに乗ります。GKも車いすに乗り、ゴールの高さを低くしています。ボールは成人女子の公式球(2号球)を使用しています。
二宮: 障害の程度によるクラス分けはあるのでしょうか?
岡田: 国際ルールは選手全員が障がいのある人で構成されている必要があり、クラス分けも適用されていますが、国内にはありません。また国内では4人制と6人制でルールが異なります。4人制は選手全員が障害者手帳を保持している必要があり、6人制では障害のある人か女性が1人でもコートに出場していればいいというルールです。
二宮: 車いすバスケットボールやラグビーは、選手の障がいの程度による持ち点を設け、コート内に出場できるポイントの上限を決めています。このような持ち点制を採用していないんですね。
岡田: そうですね。大会のカテゴリーによっては、そのルールを採用してもいいと思っています。障害の有無に関わらず参加できるという現状の国内ルールは、車いすハンドボールの裾野を広げる点でメリットとなっていますが、今は国内大会に障害のある人の参加も徐々に増えてきています。いずれはそういうルールも必要になってくると感じますね。
二宮: 日本に専用の体育館、アリーナはあるのでしょうか?
岡田: 専用コートはありません。ハンドボール専用のゴールがある体育館では、板を取り付けたり、目印で区切ったりし、簡易的な車いすハンドボール用のゴールで対応します。そもそも日本はハンドボールコートを設置できる体育館自体が少ない。そのため私たちも、簡易ゴールを購入し、置かしていただくかたちが多いですね。
伊藤: Knocküでは「小さな共生社会」の創出し続けていくことを目指としています。この「小さな共生社会」とは?
岡田: 障害のある人とない人が一緒に活動していく中で、自然と支え合いが生まれるコミュニティのことを指しています。例えば、「Knockü SC」は、障がいのある人が7割で、それ以外が3割で構成されています。子どもは全体の約3割。トップレベルの選手もいれば、子どもたち、障害のない人が混ざっているクラブにです。このクラブが、障がいのある人とない人の間をつなぐような場になればいいと思っています。
(後編につづく)
<岡田美優(おかだ・みゆ)>
一般社団法人Knockü代表理事。1994年、神奈川県出身。中学校から大学までハンドボールを11年間続けた。中学・高校で全国大会出場。神奈川県最優秀選手に2回選出された。福島大学では東北リーグ女子1部得点王に輝いた。3年時に参加したパラスポーツのボランティアで車いすバスケットボールと出会い、魅了される。翌年、ドイツに1年間留学。帰国後は早稲田大学大学院に進学し、同時に車いすバスケットボールチームのマネジャーとして2年間活動する。その後、任意団体Knocküを立ち上げ、2022年2月に一般社団法人に移行した。現在は東京都新宿区と千葉市を拠点にドイツをモデルとしたパラスポーツクラブの経営を行っている。
一般社団法人Knockü
(構成・杉浦泰介)