二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2024.11.14
前編 渋谷区内での金パレード
~ゆるく長く続けるパラスポーツとの関わり~(前編)
2018年に発足した渋谷パラスポーツを応援する草の根運動の会(渋谷パラ草の会)は、地域社会への貢献を通じて、共生社会の実現を目指している。同会の代表世話人を務める株式会社寿商会の髙橋千善社長に、これまでの手応えや今後の活動について訊いた。
二宮清純: 6年ぶりのご登場となります。
髙橋千善: お久しぶりです! 本会の目的は以前と変わらず、パラスポーツを通じ、障がいもひとつの個性と考え、多様な個性が活かされる豊かな社会を築いていくことです。東京パラリンピックはコロナ禍の影響で、無観客となりました。観戦ツアーはできないので、車いすラグビーの試合解説をオンライン配信しました。大会を終え、次はどうしようか、解散しようか、と考えていたところ、渋谷パラ草の会のスペシャルアドバイザーを務めてもらっている伊藤数子さんから「パリも頑張りましょう!」と背中を押されました。
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長): まさに有言実行を示されたのが、今年のパリパラリンピックです。16名の応援団を結成。本当にパリにいらっしゃいました。
髙橋: 背中を押してくれた伊藤さんのおかげですよ。
二宮: 実際、パリに行かれた感想は?
髙橋: 町並みは昔のままのところも多く、ハード面で決して万全の整備がなされているというわけではありませんでした。でも人、ソフト面が良かったと感じましたね。案内板がフランス語で読めなくても、ボランティアの人たちのおかげで、迷わず目的地に着くことができましたし、人はすごく親切に接してくれたように思います。
二宮: 人のホスピタリティ、いわゆる"おもてなし"が充実していたわけですね。
髙橋: そうですね。オリンピック・パラリンピック開催中に限ったことかもしれませんが、普段の日本よりも良かったかもしれません。
伊藤: 渋谷パラ草の会では、どの競技を観戦されましたか?
髙橋: 車いすラグビー、馬術、トライアスロン、陸上を観戦しました。
二宮: トライアスロンはスイム会場となったセーヌ川の水質問題が、日本でもニュースになっていました。
髙橋: 実際、競技の日程も雨の影響で1日延びました。選手は大変でしょうけど、パラリンピックという晴れ舞台を楽しんでいるようにも映りました。ランとバイク(自転車)のコースは沿道にお客さんが並ぶ。セーヌ川の河岸で背の高い塀に腰を掛けながら選手たちにエールを送る。すごくファミリーな感覚を味わいました。日本人選手が通る際には私たちから手を振ったり、声援を送ったりしました。
伊藤: 日本代表選手たちにとっては、国外の地で日本人からのエールは心強いでしょうね。
髙橋: 選手も応援に気付き、応えてくれたのでうれしかった。車いすラグビーでは、どの試合でも日本の応援団が他国よりも多かった。我々以外にもたくさんいらっしゃっていて、国旗を振ったりと会場はすごく盛り上がっていましたね。
【金メダリストからの頼み事】
二宮: 車いすラグビーはリオデジャネイロ大会、東京大会と連続銅メダルで、パリが初の金メダル獲得です。
髙橋: 私は現地で準々決勝を観て、"これは決勝に行くな"と確信しました。渋谷区は区内の学校で車いすラグビーの普及活動を継続的に行っていますし、区内の体育館を日本代表の練習会場として提供するなど、一般社団法人日本車いすラグビー日本代表チームとの協力関係を築いてきました。それで渋谷区のスポーツ関係者に「優勝するかもしれないよ。何か用意しておいたほうがいいかもね」とメールを送ったぐらいです。
伊藤: 帰国後、車いすラグビー日本代表のパレードは渋谷で行われました。このパレードは渋谷パラ草の会が仕掛けたそうですね。
髙橋: はい。リオデジャネイロ大会ではオリンピック・パラリンピックの合同パレードを銀座で盛大に行いましたが、パリ大会のパレードはありませんでした。実はパレードを渋谷で実施したのにはわけがあります。たまたま帰りの便が車いすラグビー日本代表の選手と同じだったんです。なおかつシャルル・ド・ゴール空港の出発が2時間遅れた。その間に池崎大輔選手と話す機会があって、彼から頼まれたんです。
二宮: その頼み事が渋谷区でのパレードだった、と?
髙橋: その通りです。すぐにラグビー日本代表が東京に来るスケジュールを確認し、実施できる日を調整しました。ただ帰国便の到着が金曜日。渋谷区の警察署の交通課と調整し、日程ギリギリで許可をもらった。選手たちも沿道に詰めかけた人たちも喜んでくれていたようなので、パレードを開催して本当に良かったです。
伊藤: キャプテンの池透暢選手は「今日のパレードでも、私たちの想像を超える応援をいただきました。パリでも思ったことですが、この応援も金メダルだなと誇りに思える応援だと感じました」と挨拶されていました。選手たちにとっても貴重な体験になったでしょうね。
二宮: 以前うかがった時、渋谷パラ草の会の名称を、当初パラリンピックの予定だったのがパラスポーツに変えた、と話していました。それがかえって良かった、と。パラスポーツは、パラリンピック競技以外にもありますから、活動の幅を広げやすいし、大会後も応援していく、とも。その思いは今も変わっていませんか?
髙橋: もちろんです。渋谷区内で開催されるパラスポーツの観戦を促進するための活動は、今後も継続していきます。渋谷運動会の開催や、小中高生のボランティア支援なども継続して行っていきます。来年はデフリンピックが東京で開催されますので、聴覚障がいの人とのコミュニケーションを図れるようなイベントも開催していきたいと思っています。
(後編につづく)
<髙橋千善(たかはし・ちよし)プロフィール>
渋谷パラスポーツを応援する草の根運動の会代表世話人。1949年生まれ。東京都出身。1971年、成蹊大学経済学部卒、富士通入社。1990年に株式会社寿商会に入社し、95年に同社の代表取締役社長に就任。不動産賃貸が主な事業で、渋谷の料亭「割烹 三長」を経営している。2018年5月に渋谷パラスポーツを応援する草の根運動の会【略称・渋谷パラ草の会】を設立。渋谷を拠点に置く同会の代表世話人として、パラスポーツの発展に力を注ぎ、地域社会への貢献や共生社会実現を目指している。2024年のパリパラリンピックには現地で応援に赴き、帰国後は金メダルを獲得した車いすラグビー日本代表のパレード開催にも尽力した。
渋谷パラ草の会
(構成・杉浦泰介)