二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2024.11.28
後編 緩やかな形で連携を
~ゆるく長く続けるパラスポーツとの関わり~(後編)
二宮清純: 渋谷パラスポーツを応援する草の根運動の会(渋谷パラ草の会)が発足して6年が経ちました。以前、お話をうかがった際には4つの活動方針として「解説付きのリアル観戦ツアーの企画・参加」「各種情報提供」「小中学生の自律的なボランティア育成支援」「機運の醸成」を挙げていましたね。
髙橋千善: 小中学生の自律的なボランティア育成支援、渋谷区内で開催されるパラスポーツ観戦は継続して行っています。この夏のパリパラリンピック観戦ツアーを企画しましたが、今後も国際大会の観戦ツアーを企画できればと思っています。他にパラアート展の開催や来年東京で開催されるデフリンピックのサポートなども行っています。
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長): 昨年秋の時点で、会員数の目標を1000人に設定しましたが、現在の会員数は?
髙橋: おかげさまで1000人超える方たちに入会していただきました。入会金や入会審査などは設けていませんので、誰が入ってきてもかまいません。会員が他の区や市からも入ってくれたらうれしいなと思って始めましたが、現実はそう簡単じゃないですね。
二宮: 渋谷区は早くから、シブヤ「部活動改革」プロジェクトを展開する渋谷ユナイテッド(現在は渋谷スポーツ協会に統合)を立ち上げるなど、そのあたりも先進的な印象があります。
髙橋: そうです。渋谷区も東京のオリンピック・パラリンピックが終わり、オリンピック・パラリンピック推進課が無くなってしまうかもしれないという話がありました。行政は縦割りですが、そのオリ・パラ課はいろいろなところに関連するから横串になっていた。この部署が無くなってしまうと、横串でパラスポーツを推進していけなくなるので、私は区になくならないよう要請しました。パラスポーツを推進する部署は名称こそ変わりましたが、今も残っています。
二宮: 髙橋さんの行動力の為せる業ですね。
髙橋: いやいや、私に力があるんじゃなくて、たまたま区のニーズと一致したんです。学びとスポーツ課パラスポーツ推進係は、教育の観点からもパラスポーツを推進していく部署です。スポーツを軸に健康増進を図るとか、これからは行政も横の連携が必要な事業が増えていくと思います。
【デフリンピック支援】
二宮: さて来年は東京でデフリンピックが開催されます。渋谷区の競技会場は?
髙橋: 卓球が行われる東京体育館だけです。正直、区内の盛り上がりもまだまだなように感じます。私たちにお手伝いできることがあれば、頑張りたいですね。私自身、手話の勉強を始めましたが、これがなかなか難しい。手話の勉強は一旦諦めました。それに手話でなくてもコミュニケーションを図ることはできると思うんです。例えば日本語の通じない外国人に道を聞かれて、自分は簡単な英単語しかわからないとする。その時、ジェスチャーを交えて説明すれば伝わることがありますよね。
二宮: 日本人は完璧な英語じゃないとしゃべられないと思ったりする傾向があります。それよりもコミュニケーションを取ろうとする意識こそが、大切だと?
髙橋: おっしゃる通りです。伝えようとする、理解しようとする気持ちこそが大事だと思います。
二宮: デフリンピックにはパラ草の会としては、どういう形で協力していきたいとお考えですか?
髙橋: 主催者には協力の意向を伝えてありますから、どのような関わり方になるかはこれからです。デフスポーツに対しても、あまり無理をしない、という範囲で考えています(笑)。
二宮: それは大事なことですね。団体として無理をし過ぎると疲弊してしまいかますからね。変に"ここはうちの縄張りだ"というような責任感を持つと、逆にギスギスしてしまう。
伊藤: 今回パリパラリンピックの応援ツアーを企画し、16人も参加されたそうですが、4年後のロサンゼルスパラリンピックも応援に行かれる予定ですか?
髙橋: そのつもりです。パラリンピック開催の頃に大谷翔平選手がドジャースでプレーしていれば、パラリンピック観戦とメジャーリーグ観戦を組み合わせて行きたいですね。今回のパリのツアーも観光を兼ねました。そこはガッチリ、パラリンピックだけを応援しようというものではなく、緩やかな感じで考えています。ツアーだけでなく、いろんな活動も人との繋がりも緩やかに。それが私たちの会らしいですし、継続ができるコツだと思っています。
(おわり)
<髙橋千善(たかはし・ちよし)プロフィール>
渋谷パラスポーツを応援する草の根運動の会代表世話人。1949年生まれ。東京都出身。1971年、成蹊大学経済学部卒、富士通入社。1990年に株式会社寿商会に入社し、95年に同社の代表取締役社長に就任。不動産賃貸が主な事業で、渋谷の「料亭三長」を経営している。2018年5月に渋谷パラスポーツを応援する草の根運動の会【略称・渋谷パラ草の会】を設立。渋谷を拠点に置く同会の代表世話人として、パラスポーツの発展に力を注ぎ、地域社会への貢献や共生社会実現を目指している。2024年のパリパラリンピックには現地で応援に赴き、帰国後は金メダルを獲得した車いすラグビー日本代表のパレード開催にも尽力した。
渋谷パラ草の会
(構成・杉浦泰介)