二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2025.02.27
後編 持続可能な組織づくりを
~生涯誰もが楽しめるゴルフを~(後編)
二宮清純: 松田さんは日本障害者ゴルフ協会(DGA)の代表理事に就任以降、パラリンピック競技採用を目標に掲げられています。そのためには何が必要でしょう?
松田治子: ひとつは世界ランキングがあること。これは2019年に世界ランキング(WR4GD)が設定されたのでクリアしています。そのほかでは世界選手権が行われていること、そして五大大陸で一定の競技人口が確保されていることです。後者については女性の競技人口が全体の約半分を満たさなければならないという点が課題です。
二宮: クラス分けはどういう区分になっていますか?
松田: 我々の協会が主催する大会では、身体障害者手帳を持っている人、少数の知的障害のある人が参加しています。
二宮: つまり肢体に障害のある人たちと知的障害のある人たちが、一緒にプレーされているということでしょうか?
松田: 基本的なカテゴリーとしては、知的障害の部に加え、下肢障害、上肢障害、重複障害、片マヒ、車いす、軽度障害の部があります。また大会にはグランプリの部というカテゴリーもあります。これはハンデ15以下の上級者で、障害はほぼ無差別(軽度障害に区分された場合は参加できない)の人が参加できます。
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長): このクラス分けはIF(国際競技団体)で定められたものでしょうか?
松田: WR4GDにも障害認定の規定がありますが、日本とは若干異なります。我々の場合、理学療法士をはじめとしたクラス分け委員が存在し、判定していくシステムとなっています。
二宮: 世界共通のルールがないということも、パラリンピックに採用されない理由だと?
松田: おっしゃる通りです。それにパラリンピックの競技種目はそもそも数が限られていて、毎回新たに参入できる競技も1つか2つです。
二宮: 障害者ゴルフの競技写真を拝見しましたが、選手が自分なりのフォームでプレーしていますね。まさに"パラリンピックの父"ルートヴィヒ・グットマン博士の「失ったものを数えるな、残されたものを最大限生かせ」という言葉を体現しているように映ります。
伊藤: 義足なしで片足のまま立ってスイングしている人もいます。すごい体幹です。
松田: 写真はファン・ポスティゴというスペインのトッププレーヤーですね。日本に2度ほど来てプレーしましたが、乗用カートに乗らずにコースを歩く。杖を使ってテキパキ歩いていきます。バンカーに入っても苦にしない。一度、ポスティゴとラウンドした時。私がバンカーからボールをなかなか出せなかった。その姿をポスティゴに笑われちゃったこともありました(笑)。
【日米の環境格差】
二宮: 日本障害者オープンゴルフ選手権大会の第1回のポスターも見ましたが、半ズボンを穿いた両足義足の選手の姿が大きく掲載されていて衝撃を受けました。
松田: 当時のDGA代表・佐藤成定はプロカメラマンでもありました。撮影時、写真の選手は長ズボンを履いていたんです。それを佐藤が短パンを持っていき履かせて撮った。私もその写真はとてもいいと思っています。
二宮: さすがプロのカメラマンですね。彼がもし長ズボンだったら、障害がわかりません。当時はまだ"障害を隠す"という意識が強かったはずですからね。
松田: 偏見はゴルフ関係者の中にもあります。ひとつは日本人の特徴だと思うんですが、"まだ誰もやったことがないというのでやらない"という人が多いんです。前例がないということで避けられてしまうこともある。ゴルフ場で一番のネックとされているのが、フェアウェイに乗用カートが乗り入れること。日本では5人乗りのカートが主流で、芝が傷むと考えられているからです。アメリカのように2人乗りのカートが主流であれば、幾ばくかハードルは下がるんでしょうが......。
二宮: 実際、カートがフェアウェイに入ると、芝は傷むのでしょうか?
松田: そう思っている方が多いのですが、専門家によると、フェアウェイはむしろカートを走らせて慣らした方がいい場合もあるんです。アメリカと日本では色々考え方が違い、ゴルフ場の管理者がOKを出したとしても、一部の会員の反対によって使用を断られるケースもあります。
伊藤: スポーツジムなどでも同様のことがあると聞きます。
松田: 車いす用のカートがグリーンの上に乗っても、よほど変なことをしない限りは痛むことはありません。芝を慣らすための車両が用意されており、それがグリーンやフェアウェイの上を走行しているわけですから物理的にも大丈夫なはずです。
二宮: 海外ではどうでしょう?
松田: アメリカは75年以上の歴史がある障害者ゴルフ団体NAGAがあり、日本と比べて障害者ゴルフに対する理解は深いと思います。アメリカのゴルフ場を使用する際、我々のように交渉する必要はないと聞きます。
伊藤: 最後に今後に向けた目標をお聞かせください。
松田: 日本障害者オープンは今年で30周年を迎えますが、まだまだこれからだと思っています。プロツアーのプロアマに障害者ゴルファーも参加させていただきたい。過去に実現したのは2022年から2年間、福岡麻生飯塚ゴルフ倶楽部で開催されたASO飯塚チャレンジドゴルフトーナメントのみ。今後はもっと多くのトーナメントに入れていただきたい。また、賞金大会が増えていけば、競技人口も増えていくはずです。まずはDGAが末永く続く組織でなければいけません。そのひとつとして職員に十分な給料を出せるようにしたい。組織の体制を固め、運営を持続可能にしていくことを目指します。
(おわり)
<松田治子(まつだ・はるこ)プロフィール>
NPO法人日本障害者ゴルフ協会代表理事。東京都出身。雑誌、書籍編集者を経て、日本身体障害者ゴルフ連盟(日本障害者ゴルフ協会の前身)を取材したことをきっかけに運営を手伝う。1997年より事務局長に就いた。2021年5月、代表理事に就任した。障害者ゴルフの普及と振興を目標に活動。2000年からは海外の障害者ゴルフ団体との交流を担当し、数多くの海外遠征に障害者ゴルファーと同行。2011年には2016年リオデジャネイロパラリンピックにゴルフを正式種目にするための国際プロジェクトでsecretaryを務めた。2014年には日本で開催された「第1回世界障害者ゴルフ選手権」の運営に携わり、その後も国際活動で得た多くの人脈を活用した。「日本障害者オープンゴルフ選手権」をアジア初の世界障害者ゴルフランキングGD)対象試合とするために尽力した。令和6年度公益財団法人日本パラスポーツ協会特別功労賞受賞。
日本障害者ゴルフ協会
(構成・杉浦泰介)