二宮清純の視点
二宮清純が探る新たなるスポーツの地平線
2025.04.10
前編 3年目のステップ
~「新しい社会をつくる」"共助"のプロジェクト~(前編)
9つのパラスポーツ競技団体(日本車いすカーリング協会、日本障害者カヌー協会、日本障がい者乗馬協会、日本パラ射撃連盟、日本身体障害者アーチェリー連盟、日本知的障害者水泳連盟、日本知的障がい者卓球連盟、日本パラ・パワーリフティング連盟、日本パラフェンシング協会)による共同プロジェクト「P.UNITED」(PU)は、2023年6月に発足し、今年の6月に3年目を迎える。プロモーションチームリーダーとして、広報活動を展開する一般社団法人日本障がい者乗馬協会の河野正寿事務局長に、今後の展望を訊いた。
二宮清純: PUを立ち上げてから、今年の夏で3年目になります。ここまでの手応えは?
河野正寿: 手応えはかなりあります。PUは9団体それぞれが資金不足、それに伴う人材不足という課題を解消するためにスタートしたプロジェクトです。現在3つの団体・企業(公益財団法人日本モーターボート選手会、株式会社第一情報システムズ、山九株式会社)に協賛いただけていることは、大きな成果と捉えております。1年目から1団体、1企業に協賛していただき、その後、さらに1社増やすことができました。9団体が、集まって何かをやるということは、オリパラを含めて珍しいこと。イベントなどを実施した感触を含め、我々の想像以上の驚きと新鮮さを、世の中の皆様に持っていただけたと実感しています。
伊藤数子(「挑戦者たち」編集長): PUは現在9団体で構成されていますが、今後は増やしていく方向なのでしょうか?
河野: 1年目をスタートした時から、9団体に限定はしていません。ただ我々の体力的な部分で、まず基盤を固めてから他を受け入れようというところがありました。この2年間は体制固めをしてきたつもりです。今後については、我々の理念に共感してくれる団体があれば、増やしていきたいと思っています。我々のコンセプトとして、同じ困りごとを抱えているマイナーな9団体という構成も精査していく必要があるかもしれません。例えばメジャーな競技団体がひとつ加わることで、これまでとは違った視点が見えてくるのかな、とも考えています。
二宮: ただ数を増やせばいいというわけではなく、適正規模はまだ手探りな状態なわけですね。
河野: おっしゃる通りです。その適正規模についても、もちろん考えていますし、我々の狙いとする"新しい社会を一緒につくっていこう"という観点で、どういう構成が理想なのかが大事になっていきます。
二宮: 仮に増やす場合には、入会資格みたいなものは必要でしょうか?
河野: まず内部の定款で、JPC(日本パラリンピック委員会)の加盟団体というのが条件です。その上で、入会を希望する団体は、我々の代表者会議で判断します。
伊藤: 現状は任意団体ですが、今後、法人化する予定はありますか?
河野: 将来的には一般社団法人にしていきたいと考えています。
二宮: 9団体のひとつである日本身体障害者アーチェリー連盟にガバナンスの不備が発覚し、日本パラスポーツ協会(JPSA)が資格停止処分を下しました。
河野: 我々の定款には、退会や勧告といった罰則規定が入っていません。良く言えば性善説、悪く言えばガバナンスがなっていないという状態。今の規定でJPCの加盟団体から外れない限り、我々としては何もできないという状況です。今は見守っているという段階ですが、近々、定款を変更するなどしてガバナンスを整備していこうと考えています。
【スポンサーからパートナーシップ】
二宮: JPCやJPSAからPUに対する要望は?
河野: 今のところはありません。
伊藤: 緩やかでいいところと、緩やかだからこそやりにくいところ両面があります。もっとも定款を変え、罰則規定を入れると、排除のためでなく、抑止力になるでしょうね。
二宮: 協賛企業・団体を増やしていくためにも、PU内できっちりガバナンスが効いていると示す必要があるでしょうね。今後、協賛金を収入の何パーセントにしたいとか、数字的な目標はあるのでしょうか?
河野: 各団体・企業からいくら協賛金を受け取り、そのうちの何パーセントが9団体それぞれに入っているかは公表していません。ただ、私が所属している一般社団法人障がい者乗馬協会を例にとっても、3団体・企業の協賛だけではまだ足りないというのが現状です。最低でも10団体・企業ぐらいはないと、厳しいという状況ですね。
二宮: 協賛するメリットとしては、イベント時に広告を掲出することなどを行っているのでしょうか?
河野: 我々のスポンサーシップのプログラムは、いわゆるオリンピック競技のように企業名を出すことに重きを置いてないんです。というのは、我々としては、広告塔として利用していただく、というより、一緒になって何かに取り組んでいこうという部分をアピールしたいからです。どちらかというと、我々の理念に共感し、協賛していただいているという感じですね。
二宮: スポンサーというよりは、まさにパートナーという感じですね。パラスポーツへの貢献は企業としてもポジティブな効果が大きいと思うんです。企業や団体に売り込む際の"殺し文句"のようなものはあるのでしょうか?
河野: それは"新しい社会を一緒につくっていきましょう"です。じゃあ、その新しい社会とは何かと言うと、非常に抽象的になってしまう。企業にとってのメリットは、CSRだったり、広告的価値以外の部分にもあります。我々がパートナーのおかげで成長し、共生社会実現に向かっていくというところがひとつの新しい社会のかたち。そのテーマを一緒になって、取り組んでいくことが大事なことだと思っています。それが我々の"売り文句"だと思っています。あとは9つの団体が集まっていることで、1団体を支援するよりも、様々な競技や選手をイベントに呼ぶことができる。そこも、協賛団体・企業からは結構喜んでいただいています。メジャー団体のように、誰もが知っているスーパースターがいるわけではありませんが、我々のようにいろいろな競技団体の選手がいるということは強みだと思っています。
二宮: これまではプレーするのが障がいのある人、営業とか事務的なものは障がいのない人、というケースが多かった。パラアスリートが営業に行った方が、話は円滑に進むこともあるのでは?
河野: そうですね。それは素晴らしいヒントをいただきました。選手が営業に行き、企業や団体と直接話す機会を設けられれば、非常に大きな意義があるでしょうね。
(後編につづく)
<河野正寿(こうの・まさとし)プロフィール>
P.UNITEDプロモーションチームリーダー。1974年、東京都出身。高校・大学と馬術部に所属し、卒業後は会社員の傍ら、馬場馬術競技の審判や競技運営を行う。東京2020パラリンピック開催を期に障がい者馬術(パラ馬術)を支援するため、2018年、日本障がい者乗馬協会の事務局に転職した。一般社団法人日本障がい者乗馬協会事務局長、公益社団法人日本馬術連盟馬場馬術本部委員などを務める。2023年に発足した9つのパラスポーツ競技団体による共同プロジェクト「P.UNITED」では、プロモーションチームリーダーとして、広報活動に力を注ぐ。好きなスポーツは駅伝。
P.UNITED
(構成・杉浦泰介)